連載コラムシネマセラピー

私達の身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション(心理学)メンタルヘルス(精神医学)婚活(恋愛心理学)を見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2019年10月号 映画「万引き家族」【後編】-年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?

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・等級のイメージ
・等級判定ガイドライン
・「障害年金認定医」
・監査機能
・虚偽診断書等作成罪
・認定調査
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前編では、精神障害年金の不正受給が起きる原因を、患者、社労士、精神科医の3つの立ち位置に分けて、ぞれぞれの「ブラックボックス」を明らかにしました。そして、「障害年金ビジネス」の問題点を整理しました。

それでは、一体どうすれば良いでしょうか? 今度は、精神科医、年金制度、社会の3つの立ち位置に分けて、それぞれの対策をいっしょに考えてみましょう。

精神科医はどうすれば良いの?

まず、年金の等級判定に責任を持つ精神科医は、どうすれば良いでしょうか? その対策を大きく3つあげてみましょう。

①年金の等級判定の根拠を増やす
1つ目は、年金の等級判定の根拠を増やすことです。等級判定の根拠は、患者が訴える日常生活能力についての「できないこと」だけではありません。ここで、根拠を増やす具体的な方法を3つあげてみましょう。

a. ポジティブな発言も
1つ目は、毎回の診察の中で、患者のネガティブな訴えだけでなく、ポジティブな発言も聞き出しておくことです。これは、ストレートに質問すると、なかなか出てきません。あくまで雑談の体裁で引き出すのです。例えば、最近できるようになったこと、好きでやっていること、やっていて楽しいこと、大事にしていること、最近感じた小さな幸せ、将来の目標や夢などです。これらは、プラス思考を促す認知行動療法的なかかわりです。と同時に、年金診断書をつくる際の「できること」の根拠にもなります。これらの情報をきっちりカルテに記載しておくことが重要です。すると、等級判定は、「できないこと」だけでなく、「できること」も含めたそのバランスを見極めることで、ブレなくなります。

b. 発言の様子や行動も
2つ目は、発言内容だけでなく、発言の様子や行動もカルテに記載することです。例えば、話し方や表情、服装、化粧、ヘアスタイル、ヘア染めなどの変化、げっそりしているかふっくらしているかの変化、場合によってはタバコ臭、香水臭、体臭などの特徴です。また、毎回の通院で、1人で交通機関を利用して来院するか、医療費の支払いができているか、診察が終わった後に何をする予定かなどをさりげなく確認するのも重要です。

c. 長期的で総合的な評価を
3つ目は、短期的でエピソード的な評価ではなく、長期的で総合的な評価をすることです。例えば、社労士が作成する「病状報告書」にありがちなのが、「○○ができなくなることがあります」という言い回しの羅列です。これには、期間や頻度が記載されていません。障害がない人でも、風邪をひくなどの体調不良や心理的なストレスでエピソード的に「○○ができなくなる」ことはあります。それなのに、期間や頻度に触れていないために、あたかも長期的に「できないこと」があるように印象付けられ、惑わされるわけです。つまり、訴えに一貫性は確認できないです。

また、既往の身体障害や好き嫌いや甘え(依存)などの性格(パーソナリティ特性)による「できないこと」は除外することです。あくまで、その精神障害によって、言い換えれば、その精神障害ならではの典型症状によって「できないこと」を評価します。一方、社労士は、とにかく「できないこと」なら何でもカウントして、病状が重い内容の「病状報告書」を作ります。つまり、典型性が不明です。
さらに、患者が毎回不調を訴えるわりに薬の調整を全く望まないのは、合理性がないです。

入院レベルの訴えをするわりに入院に抵抗する場合、その理由が合理的かを確認する必要があります。このように、病状に一貫性、典型性、合理性があるかを見極め、日常生活能力を総合的に判定します。

★表2 等級のイメージ
★表3 日常生活能力の判定
★表4 障害等級の目安

②年金の等級判定をあらかじめ出しておく
2つ目は、年金の等級判定をあらかじめ出しておくことです。つまり、患者が1級、2級、3級、等級なしのどのレベルなのかあらかじめ見極めておくことです。そうすると、更新前の本人の急な訴えや社労士からの「病状報告書」などの「後出しじゃんけん」の情報で、揺さぶられてもブレなくなります。逆に言えば、社労士が介入していることが分かった時点で、転医が年金目当てだと分かった時点で、より慎重にそしてより厳正に診断書を書く必要があるでしょう。なぜなら、それだけ患者が煽られている可能性があるからです。

ここで、それぞれの等級のイメージを押さえましょう。

a. 1級
表1のように、1級は、日常生活でできないことがほとんど(=×)、つまり身辺自立ができない(=×)、ほぼ寝たきりのイメージです。活動範囲は室内かベッド上で、外出には付き添いが必要です。知的障害なら、最重度から重度の知的障害に該当します。つまり、日常生活能力は、乳幼児のレベルです。日常生活能力の程度については、「常時(ほぼ100%)の援助」が必要になります。これは、年金診断書の(5)を○で囲むことになります。

また、日常生活能力の判定については、表2のように、「食事管理」「清潔管理」「金銭管理」「病状管理」「対人関係」「安全管理」「社会生活」として個別に7項目あります。「できる」(1点)、「できるが時に援助」(2点)、「援助があればできる」(3点)、「援助があってもできない」(4点)として、それぞれ○で囲みます。なお、これらは、「単身で生活をするとしたら」という前提で判定します。ここが、社労士の「攻め所」です。診断書に「独り暮らしを想定していない」と患者に吹き込み、「できないこと」を上乗せして、等級判定を上げようと目論むのです。だからこそ、精神科医は、最初から着地点を見据えることが重要と言えるでしょう。

表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、3.5点以上で、4点に近くなります。なお、この障害等級の目安については、厚労省から公表されている「精神の障害に係わる等級判定ガイドライン」を基にしています(資料1)。
このように、1級は、障害レベルがとても重く、判定は明らかで分かりやすいです。

b. 2級
表1のように、2級は、日常生活でできないことが多い(=△)イメージです。活動範囲は基本的に自宅内です。知的障害なら、中等度知的障害に該当します。つまり、日常生活能力は、小学1年生~3年生のレベルです。日常生活能力の程度については、「多く(50%以上)の援助」が必要になります。これは、年金診断書の(4)を○で囲むことになります。
また、日常生活能力の判定については、先ほどと同じように、表2の個別7項目のそれぞれのレベルを○で囲みます。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、2.0点以上で、3点前後になります。

c. 3級
表1のように、3級は、日常生活でできないことが少ない(=△~○)イメージです。活動範囲は習慣化された外出なら可能です。知的障害なら、軽度知的障害に該当します。つまり、日常生活能力は、小学4年生~6年生のレベルです。日常生活能力の程度については、「時に(50%未満)援助」が必要になります。これは、年金診断書の(3)を○で囲むことになります。

また、日常生活能力の判定については、先ほどと同じように、表2の個別7項目のそれぞれのレベルを○で囲みます。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、1.5点以上で、2点前後になります。
3級は、2級との線引きが難しいことがあります。ここが、社労士の狙い目です。社労士は、この3級レベルを2級に仕立てようと働きかけてきます。と言うのも、正社員が加入できる厚生年金の場合は、3級がありますが、基礎年金だけの場合は、3級がなく、社労士にとってビジネスにならないからです。

d. 等級なし
表1のように、等級なしは、日常生活でできないことがほぼない、つまり普通にできるイメージです。活動範囲は問題ないです。知的レベルは、境界域知能から正常知能に該当します。つまり、日常生活能力は、中学生~大人のレベルです。日常生活能力の程度については、「普通にできる」になります。ただ、就労などの社会生活には援助が必要な場合があります。これは、年金診断書の(2)を○で囲むことになります。
また、日常生活能力の判定については、先ほどと同じように、表2の個別7項目のそれぞれのレベルを○で囲みます。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、1.5未満点で、1点に近くなります。

等級なしは、3級との線引きが難しいことがあります。しかし、2級とはさすがにレベルが違います。それでも、社労士は、この等級なしのレベルでも何とか2級に仕立てようと働きかけてきます。なぜなら、先ほどと同じように、等級なしのレベルを3級に仕立て上げたとしても、基礎年金だけの場合は、そもそも3級がなく、社労士にとってビジネスにならないからです。これが、前編でご紹介した「万引き家族」の治と信代に指南する社労士の描くシナリオです。

③年金の等級判定について患者にオープンにする
3つ目は、年金の等級判定について患者にオープンにすることです。精神科医がオープンにして説明していないからこそ、患者に不信感を抱かれ、社労士につけ込まれるのです。ここで、オープンにすべきポイントを3つあげてみましょう。

a. 等級レベル
1つ目は、等級レベルです。これは、患者から障害年金の話が出た時点で、何級レベルか、または等級なしのレベルかをあらかじめ伝えることです。そして、その等級レベルの具体的なイメージを説明し、患者に納得してもらうことです。例えば、2級だと主張する患者に、「一人暮らしで助けてもらうことが日常生活の半分以上ですか?」「数ヶ月に渡ってほぼ外出していないと言えますか?」「日常生活でできることは小学校低学年並だと思いますか?」と尋ね、まず考えてもらうことです。

また、病状が良くなれば障害年金が得られにくくなるのは制度として当然のこと、その一方でそれはリハビリや就労に積極性を生み出すきっかけになり、長期的には患者のためになることも伝える必要があります(心理教育)。

さらには、キーパーソンとなる家族に同席してもらい、理解を得るのも良いでしょう。

b. 等級判定の根拠
2つ目は、判定の根拠です。特に患者がなかなか納得しない場合、その根拠として、カルテに記載された「できること」の発言内容やその時々の患者の様子を伝えることができます。そして、カルテに書かれていることが全てであり、もともと3級レベルの記載内容のカルテなのに、2級レベルの病状を年金診断書に書くのは虚偽記載になる可能性を説明することです。

c. 等級判定の妥当性
3つ目は、判定の妥当性です。これは、判定には根拠があり、妥当だからこそ、社労士が作成した「病状報告書」「診断書原案・訂正案」に影響を受けないことを先に患者に説明することができます。もっと言えば、診断書について社労士に取り合うことは最初からないと伝えることもできます。これは、持久戦の罠に引っかからないためです。

さらに、そもそも等級判定が覆らないので、最初からインターネットなどでの障害年金の相談先(社労士)にかかわらないこと、またはすでに相談していたとしても着手のステップに進まないことを推奨することができます。なぜなら、相談費用は0円ですが、着手されたら、等級は変わらなくても、「成功報酬」が発生するからです。この分が年金受給金額から引かれることで、患者が損することを説明することができます。そして、このようなビジネスのあり方は、年金制度のあり方として不適切であると説明することもできます。

もちろん、セカンドオピニオンを推奨することもできます。ビジネスに染まった社労士ではなく、他の精神科医が見ても妥当か判断してもらえれば、より客観性が生まれるでしょう。