連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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倦怠期の起源は、生存、生殖、そして社会に適応的であったことによるものであることが分かりました。それでは、倦怠期にどうすればいいのでしょうか? ここから、不安定な愛着スタイル、男女の脳機能の違い、ジェンダーギャップという3つの原因に対しての対策をそれぞれご紹介しましょう。
①不安定な愛着スタイルへの対策-アサーション
アサーションとは、相手にうまく伝えるためのコミュニケーションスキルのことです。英語で直訳すると「主張」ですが、意訳すると「爽やかな言い方」になるでしょう。
例えば、真弓が秀明に面と向かって「パパって家族のこと、何にも考えてないでしょ!」と怒鳴るシーンがあります。これは、アサーションでは、感情的に相手を威嚇・挑発するという攻撃的なコミュニケーションに当たります。これは、言いすぎです。
一方、その真弓の剣幕に対して秀明は、にらみ返しますが、しばらくして急に作り笑いをして無言になります。これは、アサーションでは、相手に気を遣って我慢するという非主張的なコミュニケーションに当たります。これは、言わなさすぎです。
このように、攻撃と非主張のコミュニケーションがパターン化されることで、ガミガミ型(不安型)とヘコヘコ型(回避型)のコミュニケーションスタイル(愛着スタイル)が強化されていくという悪循環が起きるわけです。これは、太郎と綾子のコミュニケーションにもきれいに当てはまります。
アサーションによる取り組みによって、まず、このようなコミュニケーションのパターンに気付くことです。そして、攻撃でもなく非主張でもなく、自分の気持ちや思いを大切にして率直に伝えると同時に、相手の気持ちや思いも大切にして耳を傾けるアサーティブなコミュニケーションをすることです。
根っこにある愛着スタイルは、あくまでコミュニケーションの「癖」です。「癖」は意識して、トレーニングをして変えていくことができます。実際に、真弓が秀明に離婚を切り出すシーンで、真弓は「悔しいけど、私自分で思っていたより、ずっとパパのこと好きだった。だから、パパ、私傷ついたよ」と冷静に伝えています。すると、秀明は「ウニ丼の店、また行こう」「映画も」ともう一度やり直したい気持ちを素直に打ち明けます。また、太郎は、真弓の指摘の甲斐もあって、これまでのような綾子を言いなりにさせる夫婦関係を悔い改めます。ラストシーンでは、綾子が「誰のおかげ?」と冗談めかして太郎にたずね、太郎は「綾子のおかげです」と笑顔で答えています。もはや、この2組の夫婦関係は、かかあ天下型でも亭主関白型でもなくなってきています。
なお、アサーションの詳細については、関連記事9をご参照ください。
②男女の脳機能の違いへの対策-夫婦間のSST
SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、社会的なスキルをトレーニングすることです。SSTは、先ほどのアサーションも広い意味では含みます。この記事では、SSTを特に男女の脳機能の違い、つまり理屈っぽい夫(システム化)と情緒的な妻(共感性)へのコミュニケーションスキルについてそれぞれフォーカスします。この取り組みによって、前編でご紹介したカサンドラ症候群や「逆カサンドラ症候群」を予防しましょう。
a. 理屈っぽい夫へのSST
これは、妻が、夫は共感が苦手であることを理解して、論理的に接することです。ポイントは、以下の3つのきっちり感です。男性は、きっちりという形(結果)に重きを置くからです。これらは、男性同士のコミュニケーションでは、当たり前のようにやられています。
1つ目は、きっちり説明することです。例えば、家事の分担をお願いするとき、妻は「私のつらさを察して」と感情的に言わず、家事の負担、妻も仕事をしている場合はその負担、子どもがいるなら育児の負担の内容を具体的に書き出し、さらには数値化もすることです。お願いする根拠を示すことで、理屈で訴えることです。また、連絡事項は、結論から言い、「3つある」とポイントをカウントすることです。
伝え方としては、いきなり話し出すのではなく、顔を見て、間を置くことです。この理由は、男性は、女性と比べて、視覚的な情報処理が得意である一方、聴覚的な情報処理が不得意だからです。その起源は、男性の脳機能が狩りのため、そして女性の脳機能が子育てのために最適化されてきたからと言えます。よって、男性は、遠くのものや位置関係など把握する空間認識能力は長けていますが、女性のように近くのものや声を把握する危機回避能力は長けていないのです。
2つ目は、きっちりルール化することです。この理由は、ルールとは理屈そのものなので、男性に受け入れやすいからです。例えば、家事について「気付いて臨機応変に動いて」と漠然と期待せず、家事の内容や時間を細かく分けて、分担表を張り出すことです。また、愚痴りたい時、「優しくして」と情緒的に言うのではなく、「今、愚痴りたい。『大変だったね』のひと言のみちょうだい」「いつもの慰め一発ちょうだい」と具体的に言うことです。
3つ目は、きっちり感謝することです。例えば、分担した家事について「ちゃんとできていない」と厳しくダメ出しせず、完璧でなくても「ありがとう」「助かる」「うれしい」というポジティブな言葉をあえて言い、時にメールや手紙で文章にすることです。この理由は、「頼れる夫」というメンツを守るためです。メンツは、体裁という形(システム)であるため、より男性が重んじるからです。さらには、妻が「このフタ取れない。取ってくれない?」とわざと甘えるのも効果的でしょう。
b. 情緒的な妻へのSST
これは、夫が、妻は理屈が苦手であることを理解して共感的に接することです。ポイントは、以下の3つのとりあえず感です。女性は、とりあえずという流れ(プロセス)に重きを置くからです。これらは、女性同士のコミュニケーションでは、当たり前のようにやられています。
1つ目は、とりあえず謝ることです。例えば、夫の帰宅が遅くなった時、夫は「急な残業だからしょうがないじゃん」という理屈は言わず、まず「心細い思いをさせてごめん」と謝ることです。簡単に謝るのは納得できないと思うかもしれませんが、この場合の謝ることは、共感的な挨拶であるととらえ直しましょう。たとえ妻が「仕事と私、どっちが大事なの?」という究極の質問をしてきても同じです。これは、典型的なジレンマの罠です。夫が「仕事だからしょうがないじゃん」と答えれば、ますます妻の怒りが増します。逆に、「もちろんきみだよ」だと答えても、じゃあなぜ遅かったのかとけっきょく妻の怒りが増します。かと言って、夫は「そんなこと比べることはできない」と正論を言っても、怒りは治まりません。なぜなら、妻だってそんなことは最初から分かっているからです。この質問の模範解答は、まず「そんなふうに思わせてごめん」と謝ることです。
2つ目は、とりあえず合わせることです。例えば、妻が困りごとを言った時、「だったらこうすればいいじゃん」という解決策をすぐに言わず、まず「困ったね」「つらいね」と気持ちに寄り添う言葉かけをすることです。この理由は、女性は解決(結論)よりも関係性、つまり大切にされているかを重んじるからです。むしろ、解決策をすぐに言われたら、人格を否定されたとも受け取りかねません。
3つ目は、とりあえず雑談することです。例えば、妻が1日の出来事の報告を延々と話している時、夫は「オチがない」と否定せず、「そうそう!」「分かる~」と合いの手を入れることです。また、自分もオチのない話をあえてすることです。これは、ある意味「共感オチ」です。お互いに大切にしているというメッセージを伝え合う目的があると理解しましょう。
メールやラインで、妻が「今、○○中」との事実の報告のみを送ってきた場合、夫は「だから?」と決して無視せず、「こっちは××中」と事実の報告返しをすることです。これは、どこにいても相手のことを思っているというメッセージを伝え合う目的があると理解しましょう。
③ジェンダーギャップへの対策-共働きと共子育て
共働きが夫も妻も働くことであるように、共子育てとは夫も妻も子育てにかかわることです。もちろん、家事は言うまでもありません。この2つの取り組みによって、夫婦が、再びお互いに関心を抱き、心を通じ合い、対等になり、モラルハラスメントや共依存を予防することができます。
特に、欧米では、共働きも共子育ても当たり前になっています。夫が子育てにかかわらないのも、妻が働かないのも少数派です。夫が育児や家事をしないのと同じように、妻が仕事をしないことが問題視されます。妻が働いていない場合は、病気なのかと周りから思われます。それほど専業主婦という概念そのものが薄れています。
妻が働く意味は、妻が経済的な自立だけでなく、心理的な自立も取り戻し、真に夫と対等に夫婦の決定ができるようになることです。そして、そもそも話し合いができない、対等になれないのであれば、離婚という限界設定ができることです。妻は、夫が定年退職するまで我慢して待たなくてよくなります。熟年離婚ほどお互いに不幸なものはありません。早い段階で見切りを立てることができれば、再婚のチャンスもあります。逆に言えば、離婚という限界設定があるために、夫がモラルハザードに陥ることなく、夫婦の決定に真剣に向き合うようになるとも言えます。ドラマの中で、太郎は、綾子の本気の離婚の申し出によって初めて彼女への理解を深め、今までの接し方を悔い改めました。
ただし、日本では、女性が働きたくてもなかなか働けない、男性が働かされすぎて家事や育児をやる余裕がないという現実もあります。その原因は、雇用の流動性が低いという社会構造です。そして、それを下支えする集団主義による男尊女卑の文化(権威主義的パーソナリティ)です。もちろん、制度改革をもっと進める必要がありますが、少なくとも、妻は子育てのために仕事を辞めないこととそもそも最初から専業主婦を目指さないマインドを持つ必要があるでしょう。そして、夫は育児のために仕事をセーブするマインドを持つ必要があるでしょう。
ちなみに、夫婦ですぐにできる「制度改革」があります。それは、真弓や英明のように夫婦が「パパ」「ママ」という役割で呼び合うのではなく、名前で呼び合うことです。これは、お互いを親としてではなく、男女としてみることにつながります。親であること以上に、まず夫婦であること、男女であることが最優先であることを意識づけすることができます。これは、結果的に私たちのためだけでなく、次世代のためにもなります。けっきょく政治は、政治家を選ぶ国民一人一人の意識や文化に根ざしています。国を変えるには、まず家庭の中の夫婦がその関係のあり方を見つめ直し、その夫婦(親たち)をモデルとする次世代(子どもたち)に影響を与えていく必要があるでしょう。