連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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【キーワード】
・ジェラシーマネジメント
・自己受容
・マインドフルネス
・自己実現
・アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)
・バウンダリー
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前半では、なぜ嫉妬をするのかという疑問にお答えしました。それでは、そもそもなぜ嫉妬は「ある」のでしょうか? そして、嫉妬にどうすればいいのでしょうか? これらの答えを探るために、今回も、テレビドラマ「カインとアベル」を取り上げます。このドラマを通して、嫉妬の起源を進化心理学的に掘り下げます。そして、アンガーマネジメントのように、ジェラシーマネジメントをいっしょに考えてみましょう。
まずは、自分の地位が取られることへの不安である志向性嫉妬の起源を3つの段階に分けて、考えてみましょう。
①同胞関係
約2億年前に哺乳類が誕生してから、子どもたちはその母親からの乳やエサが与えられることによって、兄弟(同胞)でいっしょに育てられるようになりました。兄弟同士がおっぱいやエサを奪い合う中、自分の取り分が少ない時にストレス(嫉妬)を感じれば、より鳴き声を上げて前に出るなどのアピールを母親にするようになり、取り分を失わないでしょう。
1つ目の起源は、同胞関係です。この兄弟間の格差の是正のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。実際に、マウスの行動実験(拘束ストレス)において、単独でストレスを受ける場合よりも、5匹のマウスの中で自分だけがストレスを受ける場合で、嫌悪記憶がより強化され、ストレスホルモン(コルチコステロン)がより増加したという結果が出ています。
ちなみに、発達心理学的には、赤ちゃん(生後5か月)の嫉妬も観察されています。実際に、赤ちゃんが、目の前で母親が人形を大事に抱っこしていると怒り出すことが確認できます。また、幼児が、下の子が生まれたことによる嫉妬で、赤ちゃん返りすること(退行)もよく確認されます。
なお、先ほどのマウスの行動実験(拘束ストレス)において、単独でストレスを受ける場合よりも、5匹のマウスがいっしょにストレスを受ける場合で、嫌悪記憶が弱まり、ストレスホルモン(コルチコステロン)が減少したという結果も出てきます。これは、嫉妬の対象(ライバルなど)が自分と同じ状況(不幸)になることで嫉妬が解消されると説明できます。これが、いわゆる「メシウマ(他人が不幸で今日も飯がうまい)」の心理の起源です。
②上下関係
約2000万年前には類人猿が誕生し、サルたちがケンカの強さによる序列によって群れをつくるようになりました(社会性)。ボスの地位を争う中、2番手のサルは、ボスザルに対してストレス(嫉妬)を感じれば、ボスザルになるチャンスに、より敏感に反応できるでしょう。このストレスには、「競争ホルモン」(テストステロン)が関係していることが考えられています。
2つ目の起源は、上下関係です。この上下間の闘争のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。実際に、サル(フサオマキザル)の行動実験(報酬分配ゲーム)において、好きなエサとまずいエサを分配する権限が与えられた2番手のサルは、下っ端のサルにはランダムにエサを与えていたのに対して、ボスザルにはまずいエサを与える選択をより多くしたという結果が出てきます。
③協力関係
約700万年前に人類が誕生し、300万年前にアフリカの森からサバンナに出て、血縁の家族同士が助け合いによって部族集団をつくるようになりました(社会脳)。集団で狩りをする中、自分ではなく別のメンバーが手柄を上げれば、自分は集団に認められず、そのメンバーが認められたことになります。この時、ストレス(嫉妬)を感じれば、次の狩りでは自分がもっとがんばって手柄を上げて集団から認められたいと思うでしょう。この時のストレスは、相手に向けば嫉妬ですが、自分に向けば悔しさ(後悔)になります。
3つ目の起源は、協力関係です。この仲間同士の協力のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。
ちなみに、原始の時代の当時から、人類は、嫉妬を恥ずかしく思ったり、隠すようにもなりました。なぜなら、嫉妬を前面に出すと、協力関係が維持できなくなり、集団全体にとってはデメリットだからです。この点で、嫉妬する時に人は能面(無表情)になることも納得が行くでしょう。
次に、自分のパートナーが取られることへの不安である性的嫉妬の起源を考えてみましょう。
約700万年前に人類が誕生して、男性(父親)は狩りをして、その食料を女性(母親)と分け合い、女性(母親)はその男性との間にできた子どもを育てるという性別役割分業をするようになりました。300万年前には、特定の男性と特定の女性のつがい(夫婦)がいっしょに子育てをして共同生活をするようになりました(一夫一妻型)。この時、相手の浮気でストレス(嫉妬)を感じれば、より相手から離れないようになるでしょう。このストレスには、「愛着ホルモン」(オキシトシンやバソプレシン)が関係していることが考えられています。
つまり、性的嫉妬の起源は、一夫一妻型の夫婦関係です。この夫婦関係の維持のために、嫉妬は「ある」と言えるでしょう。
実際に、ハタネズミの研究において、つがいになるプレーリーハタネズミとつがいにならないサンガクハタネズミは、それぞれオキシトシンとバソプレシンの受容体の脳内の分布が全く違うという結果が出てきます。その分布は、プレーリーハタネズミは快感の中枢(側坐核)であるのに対して、サンガクハタネズミは恐怖の中枢(扁桃体)にあります。この分布の違いによって、プレーリーハタネズミは、つがいであることでドパミンも活性化されて「依存」的になり(愛着形成)、つがいにならない(浮気をする)ことに「禁断症状」(嫉妬)が出るというわけです。一方、サンガクハタネズミは、交尾の時に恐怖が和らぐだけで、つがいにならない(浮気をする)ことに「禁断症状」(嫉妬)が出ることはありません。
ちなみに、そもそもなぜプレーリーハタネズミとサンガクハタネズミにはこのような違いがあるかについては、生態環境の違いが考えられます。それは、プレーリー(草原)とサンガク(山岳)の違いです。これは、300万年前に人類が森(山岳)からサバンナ(草原)に出た時に、つがいをつくり部族集団をつくった状況に重なります。森は資源が豊かで身を守るところが多い一方、サバンナは資源が少なく身を守るところが少ないという違いがあります。この違いによって、プレーリーハタネズミも300万年前以降の人類も、いっしょに子育てをすること(アロペアレンティングという広い意味での生殖)のためにつがいになったと言えるでしょう。
なお、一方で、それでも浮気をする心理はまた別にあります。その詳細については、以下の記事をご参照ください。