連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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志向性嫉妬は、集団で生活する種が、生存資源(地位を含む)の取り合いの中、生存の適応度を上げるために「ある」ことが分かりました。また、性的嫉妬は、つがい(夫婦)で生活する種が、生殖資源(子育てのパートナーを含む)の取り合いの中、生殖の適応度を上げるために「ある」ことが分かりました。つまり、嫉妬はそもそも「ある」ものです。
それでは、この点を踏まえて、嫉妬にどうすれば良いでしょうか? ここから、嫉妬のマネジメントを大きく3つ上げてみましょう。
①嫉妬を受け入れる-自己受容
隆一は、盗聴器を仕掛けたことがバレてしまい、副社長職を解任され、一時期ひきこもります。その後、完璧であることにとらわれることがなくなった隆一は、優に「いつも自由でみんなから愛される弟」「おれはずっとおまえに憧れていた」「優、おれはずっと昔からおまえのことを認めている」と打ち明けます。
1つ目は、嫉妬を受け入れることです。嫉妬がもともと「ある」ことを踏まえると、嫉妬を含めた自分の生き方をそのまま受け入れることです(自己受容)。そうすれば、嫉妬は相手の問題ではなく、自分の問題であることに気づくことができます。これは、自尊心(自己肯定感)を安定させます。
この自己受容は、嫉妬するだけでなく、嫉妬される場合にも通じるマネジメントです。例えば、嫉妬はされるものとして淡々としていることです。それくらいすごいことだと視点を変えることもできます。そうできれば、逆にへりくだったり、あえて弱みを見せたり失敗談を披露することもできるでしょう。
自己受容の具体的な取り組みとして、マインドフルネスがあげられます。この詳細については、以下をご参照ください。
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②嫉妬から自分はどうしたいかを考える-自己実現
優は、土地買収での贈賄罪の疑いで、一時期、拘置所に入れられます。その後、隆一は、落ち込む優に「(また)いっしょに(会社を)やらないか?」「おまえがいなかったら、今のおれはいない」「おまえはおれの大切な弟だ」と語りかけます。
2つ目は、嫉妬から自分はどうしたいかを考えることです。嫉妬が生存や生殖の適応度を上げるための心理メカニズムであることを踏まえると、嫉妬は、何かをする原動力です。嫉妬を、仕事をしたりパートナーを大切にするなど、自分の価値観を満たすエネルギーにすることができます(自己実現)。そう考えれば、嫉妬を嫉妬のままにして苦しむのは、時間と労力の無駄になることに気づきます。むしろ、嫉妬する相手であっても、自分の目標達成するために、協力して利用することもできます。これは、自信(自己効力感)を安定させます。
この自己実現は、嫉妬するだけでなく、嫉妬される場合にも通じるマネジメントです。例えば、相手のおかげであるという協力関係を強調することです。
自己実現の具体的な取り組みとして、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)があげられます。この詳細については、以下をご参照ください。
>>★【アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)】
③嫉妬する相手から離れる-バウンダリー
優が不正に手を染めたのは、実は隆一への対抗意識でした。つまり、力をつけていくうちに、優も嫉妬心を燃やすようになっていたのです。そのことに、挫折を経て気づくのです。そして、ラストシーンでは、もとの会社に戻らず、提携の外資企業へ修行に出発するのでした。
3つ目は、嫉妬する相手から離れることです。嫉妬は「近さ」によってエスカレートすることを踏まえると、嫉妬する相手に「間合い」を取ることです(バウンダリー)。これは、相手と違うことをする(多様化)、いろんな人間関係を築く(流動化)、SNSのチェック(ましてや盗聴器を仕掛けること)をしないことを含めて相手とは関わらない(開放化)など、個人的、時間的、空間的な「間合い」です。そうすれば、嫉妬を煽る刺激が減ります。これは、仲間意識(同調)を安定させます。
このバウンダリーは、嫉妬するだけでなく、嫉妬される場合にも通じるマネジメントです。例えば、家族などの自分の理解者の支えを大切にすることです。どうしても関わってしまう時は、気にしないふりをすることもできるでしょう。
「カインとアベル」は、ドラマの中で、教会の神父が説明しています。「旧約聖書(の創世記)に出てくる兄弟です」「彼らは、アダムとイブの息子たちで、神(ヤハウェ)の愛(寵愛)をめぐって仲違いし、ついには悲しい運命をたどるのです」と。その「悲しい運命」とは、兄のカインが、嫉妬のあまり弟のアベルを殺してしまうのです。これは、まさに隆一と優に重なります。しかし、隆一と優は、最終的に「悲しい運命」にはなりませんでした。その違いは、隆一がひきこもった時、変わらず梓の支えがありました。優も同期のひかりの支えがありました。
現代版の「カインとアベル」は、嫉妬し挫折した時、特別な誰かの支えによって、人は成長するということがよく描かれています。これは、嫉妬を乗り越えた兄弟の成長物語と言えるでしょう。このように、嫉妬の危うさと同時に嫉妬による成長の可能性に気づいた時、私たちは、より良い嫉妬のあり方、ジェラシーマネジメントを理解することができるのではないでしょうか?
3)愛着崩壊:岡田尊司、角川選書、2012
4)動物は何を考えているの?:日本動物心理学会、技術評論社、2015
5) マウスが「共感」もすれば「妬み」もすることを解明:慶應義塾大学、2011