連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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不妊治療がやめられない原因として、がんばりすぎる(過剰適応)、とらわれる(強迫)、のめり込む(嗜癖)という独特の不妊の心理があることが分かりました。
それでは、これらの心理的なリスクは何でしょうか? ここから、そのリスクを、それぞれ考えてみましょう。
①燃え尽きる-破綻
1つ目の過剰適応の心理のリスクは、燃え尽きる、つまりその破綻です。先ほどの四宮のセリフで触れられたように、身体的にも、精神的にも、そして経済的にも疲弊するリスクがあります。
また、先ほどの不育症の女性は、鴻鳥に「子どもがほしくて、やっぱりあきらめきれないから、ここに来ているんですけど。でも、妊娠してないってことが分かると、少しほっとする自分がいて。一瞬でもお腹の中に赤ちゃんがいるのが怖くて。(私は)何言ってんですかね」と打ち明けます。
これは、本来妊娠が判明することが望ましいはずなのに、流産を繰り返したために、また流産して悲しみに暮れるのを予期してしまうことです。そして、パニック症の予期不安と同じように、「予期悲嘆」が起きてしまい、妊娠を回避しようとする矛盾した心理が沸き起こっています。
特に体外受精の場合、受精卵(胚)ができた段階で心理的に「子どもができた」と認識してしまうため、着床しないことは心理的に「流産した」と受け止めてしまいがちになります。これは、排卵誘発による心身へのストレスとあいまって、誕生による希望と喪失による失望を繰り返す感情の「ジェットコースター」に乗り続けていることになります。
また、結果的に子どもができなければ、「私だけが置いてけぼり」「私はだめだ」と自尊心が低くなったり、「なんで私だけが?」という怒りや「がんばっていないのに、子どもがいる人はずるい」という恨みに転じてしまう危うさがあります。なお、過剰適応の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
②頭が硬くなる-べき思考
2つ目の強迫の心理のリスクは、「こうでなければならない」「こうあるべき」と頭が硬くなる、つまりべき思考です。ドラマの妻のように、もはや妊娠以外のことは何も考えられない(考えてはいけないと思い込む)精神状態です。最終的に子どもができなければ、「夫の血をつなげるというお勤めが果たせなかった」「血のつながりがなければ自分たちの子どもではない」と考え、次善の策として養子や里子について検討することが難しくなってしまう危うさがあります。また、子どもをつくるだけのためにセックスをしてきたので、「子どもをつくらないなら、セックスに意味がない」という発想になり、セックスレスになる危うさもあります。セックスとは、本来、単に生殖だけでなく、快楽やコミュニケーションの意味合いも大きいのにです。
さらに、もともと、大人になっても将来の夢が「お母さんになること」のままである場合や子どもをつくることが前提で結婚した場合、この心理がさらに強まり、子どもができなければ離婚リスクが高まります。欧米がパートナーとの関係を大事にするカップル文化であるのに対して、日本はもともと親子の関係を大事にする親子文化が根強いため、なおさらです。
子どもができたとしても、親アイデンティティが強まることによって、特に女性は子ども中心の人生の中、「子どもはすくすくと成長しなければならない」「子育てが自分の唯一の幸せである」と思い込んでしまいます。そのため、その後に、母乳、自然食、早期教育、習い事、お受験などの「子育て競争」への思い入れを強め、「毒親」になるリスクがあります。ましてや、子どもの障害が見つかった場合は、親アイデンティティが揺らぐので、「こんなに私はがんばっているのに」「夫の血が悪い」「子どものせいで不幸になった」という発想になる危うさもあるでしょう。なお、「毒親」の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
③元を取りたいと思う-負け追い
3つ目の嗜癖のリスクは、元を取りたいと思う、つまり、負け追いです。ドラマの43歳の妊婦の発言のように、それまでに費やした労力、時間、そして高額な治療費を無駄にしたくないと思う気持ちが高まります。これは、損を取り返したいと思う点で、ギャンブル依存症にも通じる心理です。ドラマの女性は、10%の「ギャンブルに勝った」から、得るものがありました。しかし、残りの90%の人は「負け続けてどんどん失っている」という点で、この心理の危うさがうかがえます。なお、ギャンブルの心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。