連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・親子の絆(親子観)
・新生児取り違え
・血のつながり(血縁の心理)
・情(子育ての心理)
・愛着の心理
・アイデンティティ
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現在、精子提供、卵子提供などによる生殖医療、子連れ再婚、そして赤ちゃん縁組(特別養子縁組)など、必ずしも血のつながらない親子が増えています。また、従来の里親制度、LGBTのカップルや選択的シングルマザーによる子育てなど、家族の形、親子の形が多様化しています。そんな中、みなさんは、親子の絆は何だと思いますか? やはり血のつながりでしょうか? それとも情でしょうか? さらに視点を変えて、子どもにとっての親子の絆とは何でしょうか?
これらの答えを探るために、今回は、映画「そして父になる」を取り上げます。この映画を通して、親子の絆を精神医学的に解き明かしてみましょう。
主人公は、野々宮良多。大企業のエリートサラリーマン。専業主婦のみどりと6歳の一人息子の慶多といっしょに都心の高級マンションに住んでいます。慶多がお受験で有名私立小学校に合格し、良多にとって人生の全てが思い通りに進む中、慶多が生まれた里帰りの前橋の病院から1本の電話がかかります。子どもの取り違え(新生児取り違え)が発覚したのでした。そこから、野々宮家の夫婦と取り違え先の斎木家の夫婦は、親子の絆への葛藤が始まります。
まず、彼らの親子の絆、つまり親子観を2つに分けてみましょう。
①血のつながり-血縁の心理
病院の事務部長から「とにかくこういうケースは、最終的には、100%ご両親が交換という選択肢を選びます。お子さんの将来を考えたら、ご決断は早い方が良いと思います。できれば、小学校に上がる前に」と結論ありきで迫られます。その後、良多は、自分の父親から「(生みの子は)似てたか、お前に。似てたんだろう。そういうもんだよ、親子なんて。離れて暮らしたって、似てくるもんさ」「いいか、血だ。人も(競馬の)馬と同じで、血が大事なんだ。これから、どんどんその子はお前に似てくるぞ。慶多は逆にどんどん相手の親に似ていくんだ」と説かれます。
そして、良多はその言葉をなぞって、慶多の生みの母親である斎木ゆかりに「これから、どんどん慶多は斎木さんの家族に似てきます。逆に、琉晴(良多の実の子)はどんどん僕らに似てきます。それでも、血がつながっていない子を今まで通り愛せますか?」と迫ります。
親子観として1つ目は、血のつながりです。これは、血がつながって似ていてこそ親子は通じ合えると思う血縁の心理が根っこにあります。このプラス面は、似ていることで、親密さを感じて絆が深まることです。一方のマイナス面は、その裏返しで、見た目だけでなく、能力や性格も似てほしいと思うようになることです。これは、自分が子どもとつながっている感覚が強いため、子どもを自分の分身のようにとらえ、子どもが自分の思い通りになると思うことでもあります。これは、いわゆる「毒親」の心理です。
逆に言えば、似ていなくて、思い通りにならなければ、不安が高まります。実際に、良多は、DNA検査で取り違えが確定した時、「やっぱりそういうことか」とつぶやきます。後にみどりは「あなたは、慶多があなたほど優秀じゃないのが最初から信じられなかったんでしょ」と見透かして指摘します。つまり、血のつながりにこだわることは、競走馬と同じように、親に似て優秀でなければならない、美しくなければならないという期待が強くなり、子どもをありのままに受け入れにくくなる危うさがあると言えます。
なお、「毒親」の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。
②情-子育ての心理
良多は、小学生の時、実は両親が離婚していました。そして、父親に引き取られ、大学に入学するまで新しい母親と暮らしていた過去がありました。良多が久々にその継母に会った時、彼女は、「血なんてつながらなくたって、いっしょに暮らしてたら、情は沸くし、似てくるし。夫婦ってそういうところあるじゃない。親子もそうなんじゃないかしらね。私はね、そういうつもりであなたたちを育てたんだけどなあ」と言います。
また、ゆかりは、「このままってわけには行かないですかね? 全部なかったことにして」と言い出します。そして、先ほどの良多の「血がつながっていない子を今まで通り愛せますか?」という質問に対して、「愛せますよ、もちろん。似てるとか似てないとか、そんなことにこだわるのは、子どもとつながっている実感のない男だけよ」と言い返します。
親子観として2つ目は、情です。これは、血がつながっていなくてもいっしょにいれば親子は通じ合えると思う子育ての心理が根っこにあります。このプラス面は、いっしょにいることで、親密さを感じて絆が深まることです。一方のマイナス面は、生みの親が現れた場合、親子関係が複雑になります。また、親子関係がうまく行かなかった場合、虐待のリスクが高まります。実際に、生みの子(実子)に比べて育ての子(継子)が虐待死に至るリスクは、数倍から数十倍に跳ね上がることが分かっています。法律的にも、親子関係を解消できてしまう不安定さがあります(ただし特別養子縁組を除きます)。
なお、虐待の心理の詳細については、以下の関連記事をご覧ください。