連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2023年6月号 伝記「ヘレン・ケラー」【後編】ということは特別なことをしたからといって変わらない!?【幼児教育ビジネス】

モンテッソーリ教育も効果ははっきりしない!?

モンテッソーリ教育も、一般的な幼児教育とは差別化され、世の中で成功している有名人が実はこの教育を受けていたと喧伝されています。この教育の中身については割愛しますが、この効果については、世界的な論文誌ネイチャーの姉妹紙サイエンス・オブ・ラーニング(2017)のレビューにおいて、「モンテッソーリ教育の科学的根拠は弱い」と結論づけられています(*6)(*7)(*8)。

よくよく考えると、提唱者のモンテッソーリ先生が活躍したのは、ヘレン・ケラーと同じ20世紀前半です。当時は、体罰や児童労働が容認され、今と比べものにならないほど幼児教育が行き届いていませんでした。だからこそ、モンテッソーリ教育にも意味があったでしょう。ヘレン・ケラーだって裕福な家庭に生まれたからこそ、あそこまでの教育が受けられました。

しかし、現代において、「特別」な幼児教育をしても、その効果が特別にはならなくなってきていると言うことは、保育園をはじめとする幼児教育が十分に行き届いていることを意味します。つまり、近代だからこそ広まったモンテッソーリの理念は、現代で拡大解釈され、幼児教育ビジネスに良いように利用されてしまっていることになります。これが、幼児教育ビジネスの不都合な真実です。

「奇跡の人」とは?

タイトル「奇跡の人」(The Miracle Worker)とは、ヘレン・ケラーではなく、ヘレン・ケラーに学ぶ楽しさを気づかせたサリバン先生のことだったわけですが、幼児教育ビジネスの不都合な真実を知った今、私たちの誰もが日々の生活の中でその「奇跡」を無理なく起こせることが分かります。これが、冒頭で触れた「子どもを賢くさせるためには賢くさせようと特別なことをしない」という逆説のわけです。

親が日常生活の中で、できる範囲でほどほどに子どもにかかわり、その自由なやり取りを親子でいっしょに楽しむことだけで、十分に子どもの豊かな発達を育むことができることが分かりました。この子育てのあり方によってこそ、私たちもサリバン先生と同じく「奇跡の人」になることができるのではないでしょうか?

参考文献

*6「モンテッソーリ教育」には本当に効果があるのか 専門家たちが追跡調査を実施:クーリエ・ジャポン、2023
*7【解説】モンテッソーリ教育とは?その効果は?早期教育の科学的根拠:Suzakuの研究所
*8モンテッソーリ教育 科学的根拠のレビュー:マーシャル・C、サイエンス・オブ・ラーニング、2017