連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2023年6月号 伝記「ヘレン・ケラー」【前編】何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!【象徴機能】

象徴機能はどうやって発達するの?

ヘレンは、三重苦になる前に、すでに象徴機能が発達していたため、その後に奇跡を起こすことができました。それでは、この機能はどうやって発達するのでしょうか? ここから、象徴機能の発達を3つの段階に分けてご説明しましょう。

①まねによる共感

赤ちゃんは、生後6か月をすぎると、「バンザイ」「バイバイ」「オツムテンテン」などの動きをまねするようになります。これは、赤ちゃんが親の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを「ものまね神経」(ミラーニューロン)という同じ脳内の神経ネットワークで処理するようになるからです。この時、親の動作と同時に気持ちも脳内に「鏡」(ミラー)のように映し出されることで、共感性も発達します。

1つ目の発達は、まねによる共感です。この共感性は、親が赤ちゃんの気持ちを汲み取った表情や声かけをすることで高まります(ミラーリング)。このメカニズムの詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>ミラーリングのメカニズム

②指差しによる意図共有

赤ちゃんは、生後9か月をすぎると親が指を差した方向や視線を向けた方向と同じ方向を見るようになり、1歳をすぎると自分で指を差して親に注意を向けさせ、注意を向ける対象を親(相手)と赤ちゃん(自分)で共有することができるようになります(共同注視)。そして、親の意図に気づいたり、自分の意図を伝えることが可能になります。

2つ目の発達は、指差しによる意図共有です。これは、当たり前のことのように思いますが、実は人間にしかできません。そのわけは、指差しで示された方向とは、指差しした相手からの方向だからです。指差しが分かるということは、相手の位置に自分の身を置く想像ができる、つまり相手の視点に立つという人間ならではの能力が発達したことを意味します

③ごっこ遊びによる想像

1歳後半から、食べるふりをしたり、葉っぱを皿に見立てたり、おままごとをするようになります(ごっこ遊び)。そして、相手と同じ想像の世界を共有することが可能になります。

3つ目の発達は、ごっこ遊び(象徴遊び)による想像です。さらに、特にこの時期に「ワンワン」(犬)や「ブーブー」(車)などの擬音語、「ブルブル」(震え)や「ポイする」(捨てる)などの擬態語をよく覚えるようになります。音をはじめとする身体感覚をヒントに、存在や動きを音声化(象徴化)しているのが分かります。

ちなみに、最初のまねによる共感の発達がうまく行かない場合、その後に続く指差しによる意図共有やごっこ遊びによる想像の発達もできなくなります。これが自閉症です。自閉症に言葉の遅れがあるのは、もともと言語能力(知能)が低いからではなく、ベースとなる共感性が低いためにその後に言語に必要な象徴機能が発達しにくくなるからであることが分かります。