連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【4ページ目】2023年6月号 伝記「ヘレン・ケラー」【前編】何が奇跡なの? だから子どもは言葉を覚えていく!【象徴機能】

象徴機能の進化の歴史から解ける謎は?

象徴機能は、まねによる共感、サイン言語のよる意図共有、音声言語による想像によって進化したことが分かりました。つまり、個体発生的にも系統発生的にも、サイン言語→音声言語の順番であり、サイン言語が音声言語のベースになっていることが分かります。この象徴機能の進化の視点から、解ける謎を2つあげてみましょう。

★グラフ1 象徴機能の起源

①メラビアンの法則の割合の違いの謎

メラビアンの法則とは、心理学者メラビアンの実験から、相手への影響度は、見た目(非言語的コミュニケーション)が5割強、口調(準言語的コミュニケーション)が3割強、話の内容(言語的コミュニケーション)が1割弱という割合であるという法則です。そもそも、なんでこのような割合の実験結果になったのでしょうか?

★表1 メラビアンの法則

この割合の違いは、グラフ1の非言語的コミュニケーションが約300万年前、準言語的コミュニケーションが約200万年前、言語的コミュニケーションが約20万年前という起源の古さにだいたい一致しています。なお、準言語的コミュニケーションの起源が約200万年前である根拠は、リズムの起源として、以下の記事をご覧ください。


>>リズムの起源

つまり、このだいたいの一致から、メラビアンの法則の割合の違いの原因は、それぞれのコミュニケーションの起源の古さに違いがあるからであると考えることができます。これは、能力の古さと身に付けやすさ(嗜癖性)の関係から説明することができます。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>能力の古さと身に付けやすさ(嗜癖性)の関係

②利き手と言葉の優位半球が同じ左脳である謎

私たちの利き手(多くは右手)の優位半球は左脳です。そして、言語の優位半球も左脳です。よくよく考えると、なぜ同じなんでしょうか?

この答えも、象徴機能の進化の歴史から説明できます。それは、人類は、もともと右利き(左脳が支配)が多く、指さしなどのジェスチャー(サイン言語)を主に右手で行っていたからです。すると、象徴機能が必然的に左脳で進化し、そのまま音声言語も引き継いで左脳で進化したというわけです。

なお、左脳は象徴機能を司ってより逐次的で微細的(ミクロ)であるのに対して、右脳は空間認識を司ってより直情的で粗大的(マクロ)です。この脳の側性化は、2億5千万年前の魚類まで遡ることができます。当時の三葉虫の化石の傷痕は、右側に多い傾向にありました(*5)。このことから、三葉虫を補食する多くの魚類は、後ろから追いかける時、三葉虫を自らの視界の左側(三葉虫にとっては右側)に保って仕留めていたことになります。つまり、当時から、右脳が優位に働いて左側にあるエサに飛びついていたことが推測されています。そして、当時は、もう一方の左脳に側性化された機能がなかったため、その後に象徴機能などの新しい機能が入り込む余地があったと推測されています。ちなみに、チンパンジーも右利きが多いです(*2)。

太古の昔の魚類が左側に注意が向きやすいのと同じように、陸上のトラック競技は左回り(反時計回り)です。文字を書く時には左側から始めます。プロフィール写真も顔の左側がカメラに向くように撮ることが多いです。赤ちゃんを抱く時も左側に抱くことが多いです。

さらに気になるのは、空間認識としての脳の側性化がなぜ左脳ではなく右脳であるのかの謎です。これについては、地球の自転などの何らかの自然環境によることが推定されますが、はっきりしたことは分かっていません。


>>【後編】ということは特別なことをしたからといって変わらない!?【幼児教育ビジネス】

参考文献

*1 こころと言葉 進化と認知科学のアプローチP43:長谷川寿一、東京大学出版会、2008
*2 言葉は身振りから進化した―進化心理学が探る言語の起源P44、P87、P92、P93、P225:マイケル・コーバリス、勁草書房、2008
*3 自閉症児における第2指, 第4指長比に関する検討:大澤 純子ほか、J-STAGE、2005
*4 ことばの発達の謎を解くP43:今井むつみ、ちくまプリマー新書、2013
*5 ことばの起源P192、P194:ロビン・ダンバー、青土社、2016