連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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②季節変化
約2億年前に哺乳類が誕生しました。そして、活動レベルは、体に栄養を蓄えるために食料が多い春と夏に促進される一方、食料が少ない冬には抑制され、体温を下げて冬眠するように進化しました。なお、魚類、両生類、爬虫類、そして昆虫の活動レベルが冬に抑制されることは、「冬越し」と呼ばれています。
2つ目は、季節変化です。現代の人間の文明化された社会構造のなかでは、冬に食料が少なくなって困ることはなく、生活環境である屋内の室温はエアコンでほぼ一定にコントロールされています。活動レベルは、夏だから上げて、冬だから下げる必要はありません。
しかし、原始の時代は違います。特に、約30万年前から約3万年前まで北ヨーロッパに住んでいたネアンデルタール人は、長く厳しい冬と短い夏の気候パターンである当時の氷河期に適応していきました。実際に、古代ゲノム学の研究から、このネアンデルタール人由来の遺伝子が多いヨーロッパ人やアジア人の方が、少ないアフリカ人よりも、躁うつ病の発症リスクが高いという予測が示されています(*5)。現時点では、実証までには至っていないのですが、興味深い理論的解釈です。
この気候パターンへの適応が、季節型の双極スペクトラム(季節性気分障害)の起源でしょう。そして、この冬眠する適応が、躁うつ病の抑うつ状態の起源でしょう。実際の臨床経過においても、躁状態が軽いタイプ(双極Ⅱ型障害)は、軽躁期1%強、抑うつ期50%強、寛解期46%、混合期2%強です(*1)。この割合は、軽躁期が短い夏、抑うつ期が長い冬、寛解期が春と秋にそれぞれ当てはめることができます。
さらに、この活動レベルの促進と抑制のメカニズムは、単に気候パターンへの反応だけでなく、先ほどの不安定な生存環境にも働くようになったでしょう。つまり、「とても働く」ことで過労死するアリとは違い、人類は、「とても働く」分、そのあとに「よく休む」という能力(抑うつ状態)も進化させたというわけです。つまり、スイッチが入りやすい分、スイッチが切れやすくもなりました。人類の個体差は、単にスイッチの入りやすさだけでなく、スイッチの切れやすさ(時間差)も加わったと言えます。
ちなみに、活動レベルに時間差が起きる個体差は、気候変動だけでなく、日内変動(概日リズム)も考えられます。それは特に、若年者は夜更かししがち(睡眠時後退症候群)で、高齢者は早起きしがち(睡眠時前進症候群)であるという生理現象です。これらは、現代では睡眠障害(概日リズム障害)と見なされています。
しかし、原始の時代は違います。約300万年前に、人類は血縁集団(部族)をつくって助け合うようになりました。しかし、人類は、まだか弱く雑食であり、獲物を狩る側ではなく、獲物として狩られる側でした。ライオンなど多くの肉食動物は、獲物に気づかれにくい夜に狩りをする夜行性です。そんななか、いかにその危険から部族を守るか、つまり夜間の保安が最重要課題になります。この時、若年者は夜更かしして、高齢者は早起きして、自発的に夜間の保安を分業するよう進化していったことが考えられます。
なお、現代のように交代制について示し合わせることは、当時にはできません。なぜなら、言葉を話すようになったのは約20万年前であり、当時は時間の概念すらなく、他の動物と同じようにその日その夜その瞬間を周りの人と相互作用しながら反応的に生きているだけだったからです。
また、高齢者が夜更かしではなく、あえて早起きになるように進化していった根拠としては、その危険性から考えることができます。そのわけは、早起きをする時間帯である未明は、最も油断して危険性が高いからです。実際に、合戦の奇襲のタイミングの基本は、夜明け前です。この時、若年者よりも余命が短い高齢者が盾として犠牲になる方が、集団の適応度が高くなります。もちろん、現代の人権尊重の価値観からは、明らかな年齢差別であり、まったく受け入れられません。ただ、原始の時代はそうではなかったというだけのことです。
実際の観察研究において、アリやハチなどの真社会性の昆虫は、若いうちは安全な巣の中で幼虫や子どもの世話をします。大きくなると次に、巣の修復にかかわる仕事をします。そして年を取った最後は、危険な巣の外で餌を取りに行く仕事をします。このように、年齢によって労働の内容が変わっていく習性は、齢間分業と呼ばれ、真社会性の昆虫に共通して見られます(*4)