連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・不安
・うつ
・偏桃体
・パニック発作
・ストレス関連成長(SRG)
・思春期危機
・自己イメージの安定
・「蛙化現象」
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前回(その1)に、映画「インサイドヘッド2」を通して、社会的感情の機能とその起源を解き明かしました。
>>【その1】なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?―社会的感情
特に、不快感情である恥ずかしさと悔しさ、相対的な不快感情であるうらやましさとねたましさは、ストレス反応として積み重なると、不安やうつなどの病的感情に発展します。それでは、そもそもなぜ病的感情は「ある」のでしょうか? そして、特に不安が「暴走」したら、どうなるのでしょうか?
今回(その2)は、再びこのアニメ「インサイドヘッド2」に登場する「大人の感情」のキャラクターから、この病的感情の機能とリスクを解き明かします。そして、より良い感情との付き合い方をいっしょに考えてみましょう。
それではまず、残りの2つの「大人の感情」のキャラクターの特徴を通して、病的感情の機能をまとめてみましょう。
①シンパイ―不安
シンパイは、細見でオレンジ色。大きな口をワナワナさせ、頭のてっぺんに伸びた傷んだ髪の毛は、すり減った神経のようです。シンパイは、「目に見える危険なものから守る」のが基本感情のビビリであると説明し、「(それに対して)私の役割は、まだ見えてない危険なものから守ること。未来を考えて計画を立てる」と自己紹介します。確かに、細見の体格はビビリと似ています。シンパイは「良くないことが起きた時のために、心の準備をしとかなきゃいけないの」と言います。
1つ目の病的感情は、「心配性」「神経質」とも言い換えられる、不安です。例えば、シンパイは、ライリーをヴァルたちと仲良くさせるために、逆にもともと仲良しだった2人を遠ざけます(回避)。試合で認められるために、朝練で同じシュートの練習を繰り返させます(強迫)。また、ヴァルたちに気に入られるために、好かれそうな曲やバンドの名前を思い出させようとします(同調)。このように、不安は、身を守り、地位(縄張り)を守り、周りに合わせる働きがあります。これが、不安の心理の機能です。
不安は、感情でありながら、認知(思考)面にも大きな影響を与えていることが分かります。だからこそ、シンパイは「大人の感情」のキャラクターたちを率いているのです。なお、不安の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。
②ダリィ―うつ
ダリィは、くすんだブルーグレイ。けだるい様子で、いつもソファに寝転がり、だらだらスマホをいじっています。最初はこのキャラクターの役割がはっきりしません。
もう1つの病的感情は、「無気力」「倦怠感」とも言い換えられる、うつです。例えば、その後、ヴァルたちに気に入られるために、幼稚だと思われたバンドをライリーにわざと「大大だーい好き」と皮肉っぽく言わせます(マイナス思考)。そして、その1で説明した社会的感情である、さげすみを掛け持ちしているとも言えます。また、親の前では、ライリーを不機嫌でだるそうにさせます(反抗)。さらに、今回の映画では描かれていませんでしたが、一番の役割は、がんばりすぎたあとに脳を一定期間休ませることです。そもそも本来は弱っているからこそ、消極的になり、マイナス思考に陥るのです。これらが、うつの心理の機能です。
なお、うつの心理の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。
映画では、シンパイとダリィの2つの「大人の感情」のキャラクターが病的感情として登場していました。確かに、精神医学的にも、不安とうつとして分類します。ただ、脳科学的には、これらは同じく、脳の中にある感情中枢(扁桃体)が、不快感情(ストレス)によって過活動になり、動悸などの自律神経を亢進させている状態です。例えるなら、不安は、朝に遅刻しそうになって、最寄り駅まで全速力で走っている時のような、「脳の爆走」です。一方、うつは、その途中で息が上がっていったん動けなくなっている時のような、「脳の息切れ」です。この時、同じく、脳内のある神経伝達物質(セロトニン)が働きにくくなっています。
つまり、一見真逆に見えて、その根っこは同じである点で、シンパイ(不安)とダリィ(うつ)は表裏一体と言えるでしょう。