連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2024年9月号 アニメ「インサイドヘッド2」【その1】なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?―社会的感情

********
・恥ずかしさ(羞恥心)
・悔しさ(後悔)
・うらやましさ(羨望)
・ねたましさ(嫉妬心)
・うぬぼれ(傲慢)
・誇り(自慢)
・あわれみ(同情)
・さげすみ(軽蔑)
********

自分を恥ずかしく思う一方で、そうじゃない人をうらやましく思ったり・・・逆に自分はモテると思う一方で、そうじゃない人を気の毒に思ったり・・・このように、みなさんは人間関係で沸き起こる感情に日々とらわれていませんか? この感情は、社会的感情と呼ばれています。なぜこのような感情は出てくるのでしょうか? そもそもなぜこのような感情は「ある」のでしょうか?

これらの答えを探るために、今回は、アニメ「インサイドヘッド2」を取り上げます。このアニメに新たに登場する「大人の感情」のキャラクターを通して、社会的感情の機能とその起源を掘り下げてみましょう。

なお、すでに「インサイドヘッド1」の記事で、基本感情について解説しました。また、この続編記事では自由意志について解説しました。詳細は以下をご覧ください。


>>【基本感情】


>>【自由意志】

社会的感情の機能とは?

インサイドヘッド1に引き続き、舞台は再びライリーの頭の中。そこでは、ヨロコビ、ビビリ、イカリ、ムカムカ、そしてカナシミの5つの感情のキャラクターたちが、変わらず彼女をずっと見守り続けていました。そんな中、ライリーが13歳になり思春期に入った時、さらに4つの「大人の感情」のキャラクターが現れます。

それではまず、そのうちの2つの「大人の感情」のキャラクターの特徴を通して、私たちの社会的感情の機能をまとめてみましょう。

①ハズカシ―羞恥心

ハズカシは、大柄でショッキングピンクの色。パーカーを着ており、恥ずかしくなった際にはそのパーカーのフードで顔を隠す癖があります。ヨロコビと握手する時、緊張から手汗がかなりありました。ライリーがホッケー合宿で憧れの先輩ヴァルに初めて会った時、舞い上がってぎこちないダンスをしてしまいますが、この時にハズカシはライリーの顔を赤くさせます。

この社会的感情は、まさに恥ずかしさ(羞恥心)です。顔を隠すのは、いわゆる「穴があったら入りたい」「その場から消えたい」という気持ちで、自己縮小感と呼ばれています(*2)。大柄なハズカシだからこそ、小さくなろうとするギャップがおもしろいです。これは、社会的な欲求の1つである、相手(社会)から好かれたいという愛情欲求(自己肯定感)が満たされていないことへの反応です。

つまり、羞恥心とは、特に見た目や立ち振る舞いなどのもともとの資質において、相手(集団)から受け入れられない状況への不快感です。逆に言えば、そうならないようにするため、相手に好かれるような見た目や立ち振る舞いをするようになります。これが、恥ずかしさの心理の機能です。

恥ずかしさとよく似た社会的感情として、悔しさ(後悔)があります。これは、もう1つの社会的な欲求である、相手(社会)に期待されたいという承認欲求(自己効力感)が満たされないことへの反応です。特に能力や努力において、相手(集団)から受け入れられない状況への不快感です。逆に言えば、そうならないようにするため、相手の期待に応えようと努力するようになります。これが、悔しさの心理の機能です。

また、時として申し訳なさという罪悪感に発展します。例えば、ライリーは更衣室でいっしょにいた仲良しの友達とついはしゃいでしまい、気が抜けているとコーチに目を付けられたシーン。そのために、チームメンバー全員がラインダッシュさせられますが、その後にライリーはヴァルに謝りに行きます。これがまさに気が抜けていた後悔からの罪悪感です。この感情に特化したキャラクターは今回の映画には登場しておらず、この先で説明するシンパイが掛け持ちしていました。

なお、恥ずかしさと悔しさは、得られないのが愛情欲求か承認欲求かという違いがありますが、日常的にはかぶっています。このシーンにしてもそうでしたが、いっしょになって使われていることが多いです。

②イイナー―羨望

イイナーは、小柄で緑色。うるうるした大きな目で上目遣いをしており、まるで物欲しげな子犬のようです。ライリーがヴァルに初めて会った時、憧れのあまり、イイナーは、ヴァルのハイライトにしてある赤い髪にライリーの手を伸ばさせます近づけさせます。

この社会的感情は、まさに「いいなあ」といううらやましさ(羨望)です。これは、相手の承認欲求が満たされていることへの反応です。相対的言えば、自分の承認欲求が満たされていないことへの反応です。そうならないようにするため、期待に応えようと私たちは努力するようになります。これが、うらやましさの心理の機能です。そして、好感が伴えば、賞賛の心理に発展します。

うらやましさとよく似た社会的感情として、ねたましさ(嫉妬心)があります。うらやましさは自分が持っていないもの(持つべきもの)を相手が持っていることへの反応であるのに対して、ねたましさは自分がもともと持っているもの(持つべきもの)を相手に取られることへの反応です。その多くがパートナーの愛情であることから、この記事では、分かりやすさを優先して、ねたましさは相手の愛情欲求が満たされてしまうことへの反応と分類します。同じく、この心理のおかげで、そうならないようにするために、パートナーなどの親しい人により好かれるかかわりをするようになります。これが、ねたましさの心理の機能です。

うらやましさとねたましさの違いも、得られないのが愛情欲求か承認欲求かで分けましたが、実際はごっちゃになって使われることが多いです。ちなみに、うらやましさはポジティブなニュアンスがありますが、ねたましさはネガティブなニュアンスがあります。この点で、ねたましさのキャラクターは、今回の映画には登場していないのですが、名付けるとしたらイイナーに対して「ヤダナー」でしょう。ちょうど、仲良しの2人がライリーとは違う高校に揃って行くことを知った時の裏切られたような感情です。ねたましく、恨めしくも思うシーンですが、基本感情のカナシミが代わりに動こうとしていました。

なお、ねたましさの心理の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【ねたましさ(嫉妬)の心理】