連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2021年3月号 アニメ「インサイドヘッド」なんで悲しみは「ある」の? どうすれば?【感情心理学】

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【キーワード】
・喜び(幸福)
・怖れ(恐怖)
・怒り(威嚇)
・ムカつき(嫌悪)
・悲しみ(悲哀)
・驚き(注意喚起)
・カタルシス
・受容
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みなさんは、悲しくなったとき、悲しみが早くなくなればいいと思ったことはありませんか? いつでも笑っていたいのに、そもそもなぜ悲しみが「ある」のか考えたことはありませんか? さらに、悲しみだけでなく、喜び、怖れ、怒り、ムカつき、驚きなどの感情は、なぜ「ある」のか考えたことはありませんか?
これらの答えを探るために、今回は、子どもだけでなく大人も楽しめるディズニーアニメ「インサイドヘッド」を取り上げます。この作品を通して、悲しみをはじめとする感情を、感情心理学として掘り下げます。そして、より良い悲しみのあり方をいっしょに考えてみましょう。

6つの基本感情とは?

舞台は、ホッケー好きな11歳の女の子、ライリーの頭の中。

そこには、ヨロコビ、ビビリ、イカリ、ムカムカ、そしてカナシミの5つの感情の小びとたちが感情操縦デスクの前でせめぎ合っています。

ある日、ライリーは、父親の仕事の都合で、住み慣れたミネソタの田舎からサンフランシスコの大都会に引っ越します。そして、見知らぬ街で友達もいない中、ライリーの頭の中の小びとたちに事件が起こります。

それでは、まず感情の小びとたちの特徴を通して、私たちの6つの感情(エクマンによる基本感情)をまとめてみましょう。

①ヨロコビ-幸福

ヨロコビのイメージカラーは黄色。彼女は、小びとたちのリーダーとして、いつも明るく前向きです。彼女だけ体表からおぼろげな明るい微粒子が出ており、毎日「今日もまた完璧な1日だったわ」と言います。引っ越しトラックが到着していないことでライリーのパパとママが言い合いをしているのを見て、ヨロコビは奥の棚から「考えの電球」を感情操縦デスクにはめ込みます。すると、ライリーがいきなりホッケーごっこを始め、パパとママも楽しそうに参加するのです。ライリーは、パパとママに気を遣ったのでした。

ヨロコビの役割は、ライリーを楽しい気持ちにさせることです。感情心理学的に言えば、これは、食欲や愛情欲求などの欲を追い求める感情である喜び(幸福)です。生きていくための感情そのもと言えます。

一方、ヨロコビには欠点もあります。例えば、引っ越して初めて学校に行く日の朝、パパから「楽しんできてね、おサルさん」と言われて、ライリーはヨロコビによって「ウホッウホッ!」とサルまねの冗談を返します。しかし、教室で自己紹介をしている最中に、感情が爆発してしまうのです。そのわけは、実は緊張しているのに、空元気で無理におふざけをしたからでした。このように、ヨロコビの欠点は、他の感情を抑え込んで、刹那的になってしまうことです。実際に、ヨロコビの体表の微粒子は、自分のエネルギーを自制できずに暴走してしまうことがビジュアル的に描かれています。つまり、ヨロコビは、お気楽でムードメーカーの要素がありますが、その反面、押しつけがましく、浅はかなお調子者の要素もあります。

ヨロコビの表情は、目尻が下がり、口角が上がっています。この表情(笑顔)の起源は、太古の昔に霊長類が仲間同士で緊張緩和(宥和)を伝えるために、口角を引き上げて高い鳴き声を出していたコミュニケーションまで遡ります。

なお、笑いの起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。

>>【笑いの起源】※2020年3月号 テレビ番組「M1グランプリ」

②ビビリ-恐怖

ビビリのイメージカラーは紫。彼は、いつもビクビクしており、何かにつけて「危ない!気を付けて!そこに行っちゃだめ!」と言いながら、細身の体をクネクネして縮こまらせます。幼いライリーが家の中を走り回るとき、彼は、電気のコードを目の前に見つけると、「ゆっくり!ゆっくり!」とおびえながらライリーに注意を促しています。

ビビリの役割は、ライリーを警戒させることです。感情心理学的に言えば、これは、危険を予期して回避する感情である怖れ(恐怖)です。ビビリは、ヨロコビの暴走を止めるストッパーとして、絶対に必要な感情です。この点で、実は彼はサブリーダーです。

一方、ビビリの欠点は、不安になりすぎると、何もできなくなってしまうことです。

ビビリの表情は、眉がつり上がり、目を見開き、口がへの字になっています。この表情(おびえ顔)の起源は、太古の昔に霊長類が仲間同士で群れの序列が下であること(ひれ伏し)を伝えるために行っていたコミュニケーションまで遡ります。眉をつり上げ目を見開くわけは、恐怖の相手をよく見るためです。口をへの字にするのは、萎縮しているためです。

なお、恐怖(不安)の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。

>>★【恐怖(不安)の起源】※2020年4月号 海外ドラマ「ウォーキングデッド」

③イカリ-威嚇

イカリのイメージカラーは赤。彼は、ノシノシと歩き回り、思い通りにならなかったり、理不尽な思いをした時に、頭から火を噴きます。赤ちゃんのライリーのお腹がすいていたりオムツを替えてほしいとき、イカリは感情操縦デスクのレバーを押します。すると、ライリーは大泣きします。

イカリの役割は、ライリーをいら立たせることです。感情心理学的に言えば、これは、自己主張をする感情である怒り(威嚇)です。権利が侵害されないために、やはり必要な感情です。

一方、イカリの欠点は、怒り狂って、セルフコントロールができなくなることです。例えば、ライリーが新しいアイスホッケーチームの入団テストで失敗したときも、イカリは感情操縦デスクのレバーを押してしまいます。すると、ライリーは「最悪、やってらんない!」と怒鳴り、ホッケースティックを投げ出していました。

イカリの表情は、目をやや細めて、歯を食いしばっています。この表情(怒り顔)の起源は、太古の昔に霊長類が仲間同士で縄張り(権利)を主張したり、群れの序列が上であること(権力)を主張するために行っていたコミュニケーションまで遡ります。目を細めるわけは、相手の動きを見据えつつ、自分の視線の先から次の行動を相手に読まれないようにするためです。歯を食いしばるのは、相手の攻撃により口の中を切らないようにするためです。

なお、怒りの起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。

>>★【怒りの起源】※2020年10月号 ドラマ「半沢直樹」