連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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5人の感情の子びとたちを通して、6つの基本感情をまとめました。そして、悲しみという感情が「ある」のは、周りからサポートを引き出すためであることが分かりました。
ところで、ラストでライリーが家出を踏み止まるシーンで、ヨロコビはなぜ自分ではなくカナシミこそ感情操縦デスクの前に立つべきだと悟ったのでしょうか? それには、次のような伏線シーンがありました。
ヨロコビとカナシミが指令部に戻る旅の途中、ビンボンに出会います。彼は、幼いときのライリーの空想の友達です。彼は司令部に帰るための道案内役になってくれますが、その最中、ライリーとの思い出のロケット号を記憶の作業員たちに捨てられてしまいます。悲しんで動けなくなっているビンボンに、帰りを急いでいるヨロコビは、ビンボンを元気づけようと「ほ~ら、こちょこちょお化けが来たわよ~」と体をくすぐってふざけます。しかし、ビンボンはしょんぼりしたままでした。
そのときです。カナシミが近づいてきて、ビンボンの横に座り、「ロケットがなくなって、ほんと残念ね」「あなたの愛するものが奪われ、消えてしまった。永遠に」と慰めます。ヨロコビは「ビンボンをこれ以上落ち込ませないで」と口出ししますが、カナシミは「あなたとライリーは素敵な冒険をしてたんでしょうね」と続けます。すると、ビンボンは、「そう。僕たちは親友だった」とわんわんと泣き出します。そして、たっぷり泣いたあと、涙をぬぐって、深呼吸して、「もう大丈夫」「行こう」と歩き出すのです。
ヨロコビは「どうやって彼を立ち直らせたの?」と不思議がります。カナシミは「分からないわ。ただ、ビンボンは悲しかった。だから私はその悲しみに寄り添っただけ」と答えます。
それでは、ここから、より良い悲しみのあり方を3つ考えてみましょう。
①悲しみを味わう-カタルシス
1つ目は、悲しみを味わうことです(カタルシス)。ビンボンもライリーも、悲しみをそのまま出すことで前向きになりました。そもそも悲しみは、家族や仲間に助けを求めるための働きがあります。つまり、悲しみを誰かに伝えるだけで、サポートが得られた感覚になり、すっきりするため、悲しいと言うこと自体に意味があります。
また、もともと悲しみは、それまでの行動が原因で何かを失った場合にその行動にブレーキをかける働きもあります。よって、その行動をいったんリセットするために、じっくり時間をかけて、悲しみを味わうことにも意味があります。
逆に言えば、悲しみを我慢したり(過剰適応)、なかったことにすると(抑圧)、サポートが得られないと思い込んでしまいます。これは、秘密をバラさないことと同じように、言いたくても言えない葛藤でもあります。こうして、ライリーが家出をするように自暴自棄になってしまうリスクが高まります。
②悲しみを受け止める-受容
2つ目は、悲しみを受け止めることです(受容)。ビンボンもライリーも、悲しみを受け止められてはじめて前向きになりました。
逆に言えば、悲しみに対して、いきなり助言したり、励ましたり、ふざけてごまかしたりしても効果は期待できないです。例えば、鈍感なライリーのパパは、夕食のときに反応が乏しく様子がおかしいライリーに、最初「その態度は何だ?」「部屋に行きなさい!」と父としての威厳を見せてしまいます。そのあと、言いすぎたと反省して、「学校で何があったか話してみないか? おいおい、パパの幸せなオサルさんはどうしちゃったんだ? ウッホウッホ」と言い、ライリーを無理やり盛り上げようとしていました。
③悲しみを成長の糧にする-自己成長
3つ目は、悲しみを成長の糧にすることです(自己成長)。カナシミから学んだヨロコビと同じように、ライリーも悲しみを通して寄り添って優しくしてもらった体験が、やがて誰かに寄り添って優しくする原動力になります。自分の悲しみをよく知っているからこそ、友達思いになり、やがて親になれば子ども思いになります。
逆に言えば、悲しみの体験に向き合っていないと、悲しみの感情をよく分からないまま、相手の悲しみにも思いを馳せることが難しくなるとも言えます。
より良い悲しみのあり方とは、悲しみを味わい、受け止めてもらい、そして成長の糧にすることが分かりました。つまり、悲しみは、決してなくなればいいものではないことが分かります。もともと「かなしい」の語源は、感動の終助詞の「~かな」から転じた形容詞で、「愛(かな)しい」とも漢字表記します。
悲しみとは、失った大切な何かへのこの「愛(いと)おしさ」でもあることをよく理解した時、私たちは、より良く悲しむことができるのではないでしょうか?
1)感情心理学・入門:大平秀樹(編)、有斐閣アルマ、2010
2)進化と感情から解き明かす社会心理学:北村英哉・大坪康助、有斐閣アルマ、2012
3)人は感情によって進化した:石川幹人、ディスカヴァー携書、2011