連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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【キーワード】
・志向性嫉妬
・性的嫉妬
・自己愛性パーソナリティ
・情緒不安定性パーソナリティ
・承認
・仲間意識(同調)
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みなさんは、友達が自分よりも先に出世したり結婚することでもやもやしたことはありませんか? 恋人やパートナーが浮気するんじゃないかと焼き餅をやいたことはありませんか? これらは、嫉妬ですよね。
私たちは、なぜ嫉妬をするのでしょうか? この答えを探るために、今回は、テレビドラマ「カインとアベル」を取り上げます。このドラマを通して、嫉妬の心理やリスクを精神医学的に掘り下げてみましょう。
主人公は、兄の隆一と弟の優。2人とも父親が社長である大企業に勤務しています。隆一は、子どもの頃から成績優秀で、父親の期待を背負い、副社長にまで出世しています。一方、優は、子どもの頃から父親に隆一と比べられ、ダメ出しばかりされてきた一社員です。優は、当初、自分に面倒見が良い隆一に、うらやましさを超えて、憧れを抱いていました。ところが、ストーリーが進むにつれて、隆一が資金繰りの失敗を取りつくろって行き詰まる一方、優は自分らしさを発揮して活躍するようになり、2人の立場が逆転していきます。さらに、優は、隆一の婚約者である同僚の梓に心を寄せるようになります。こうして、隆一は、優への嫉妬に狂っていくのでした。
このように、自分が持っているもの(持つべきもの)を相手に取られることへの葛藤(不安)が、嫉妬です。さらに、自分の地位が取られる場合は志向性嫉妬、自分のパートナーが取られる場合は性的嫉妬と分類されます。
ちなみに、「嫉妬」という漢字は、2つの女へんが使われており、女性ならではのニュアンスがありますが、実際には、男女問わず、嫉妬はあります。女へんが用いられている理由としては、男性よりも女性の方が、すぐに感情に出してしまい目立つためでしょう。また、志向性嫉妬については、男性ならではの印象があります。しかし、スクールカーストやママカーストが歴然としてあることから、やはり女性も志向性嫉妬があると言えます。一方で、性的嫉妬については、女性ならではの印象があります。しかし、パートナーの居場所をいちいち確認したり外で働くことを制限するモラルハラスメントやストーカー行為が歴然としてあることから、やはり男性も性的嫉妬があると言えます。
なお、厳密には、自分が持っているもの(持つべきもの)を相手に取られる前は「嫉妬」、取られた後は「妬(ねた)み」と言うことが多いようです。この記事では、分かりやすさを優先して、「嫉妬」=「妬み」として、ざっくり説明します。
また、自分が持っていないもの(持つべきもの)を相手がもともと持っていることへの葛藤(不安)は、羨(うらや)み(羨望)です。日常的に「妬み」は、この「羨み」と混同して使われることも多いです。ただし、「妬み(嫉妬)」はもともと相手が持っていないものを奪いにくることが前提であるのに対して、「羨み」はもともと相手が持っていることが前提であるため、嫌悪感の強さとしては、羨み<妬み(嫉妬)であると言えます。さらに、「妬み(嫉妬)」は、「羨み」と語源が同じ「恨み」に発展することもよくあります。
ちなみに、自分が持っていないもの(持つべきもの)を相手が持っていることへの好感は、憧(あこが)れ(憧憬)です。同じ心理であっても、「羨み」は嫌悪感であるのに対して、「憧れ」は好感であるという違いがあります。
まとめると、日常的には、羨み=妬み(嫉妬)=恨みとして使われますが、嫌悪感の強さは、憧れ<羨み<妬み(嫉妬)<恨みであると言えます。
それでは、なぜ嫉妬をするのでしょうか? ここから、嫉妬のリスクを大きく個人因子と環境因子の2つに分けてみましょう。
①個人因子
個人因子としては、主に3つあげられます。
1つ目は、自信(自己効力感)がありすぎることです。自信とは、「自分はできる」と感じることです。隆一は、もともと優秀で完璧主義で、これまで人生の全てがうまく行っており、ほとんど挫折を知りませんでした。そして、幼少期から全ての点において優に勝っていました。逆に言えば、勝ってばかりだとは、負けること(失敗)に慣れておらず、実は負けること(失敗)に不安(嫉妬)を感じやすくなっていると言えます。だからこそ、隆一は、資金繰りの失敗を社長である父親や優に打ち明けられず、一人で抱え込み、姿をくらますのでした。
ちなみに、この心理は、自己愛性パーソナリティにつながります。この特徴は、嫉妬を含む逆境にとても脆いです。逆に、優のようにもともと自信がない場合は、嫉妬よりも嫌悪感が少ないうらやましさや、むしろ好感である憧れを持つでしょう。
2つ目は、自尊心(自己肯定感)が不安定であることです。自尊心とは、「自分は(うまく行かなくても)大丈夫」と感じることです。隆一は、父親の期待(承認)を一身に背負い、周りから認められて、成長しました。逆に言えば、それは、認められないことに慣れておらず、実は代わりに誰かが認められること(=自分が認められないこと)に不安(嫉妬)を感じやすくなっていると言えます。隆一の母親は、幼少期に病死しており、愛情としてあったのは、父親の条件付きのものだけでした。
ちなみに、この心理は、情緒不安定性パーソナリティにつながります。この特徴は、嫉妬にとても敏感になります。
3つ目は、仲間意識(同調)が強すぎることです。仲間意識とは、「自分と相手は同じ」と感じることです。隆一は、優が兄弟であることから、これまで優がうまく行かなくなった時に毎回面倒を見ていました。隆一は優から見れば明らかに違いますが、隆一として優は自分と同じ兄弟であるという意識が強くありました。ただし、同じであることを意識しすぎることは、少しの変化(違い)に対して不安を感じやすくなると言えます。自信のなかった優が少しずつ前向きになっていくたびに、隆一は毎回敏感に反応していました。挙げ句の果てに、社長の父親と取締役になった優が2人きりで話していることに堪えられなくなり、社長室と取締役室などに盗聴器を仕掛けるのです。
なお、承認の心理の詳細については、以下の記事をご覧ください。
②環境因子
環境因子としては、主に3つあげられます。
1つ目は、相手との違いが少ないことです(均一性)。隆一にとって、優は男兄弟、つまり同性で近親者です。2つ目は、相手がいつまでも変わらないことです(固定性)。優とはいっしょに生まれ育ってきました。そして、同じ会社に勤め、同居しています。3つ目は、相手と距離がとれないことです(閉鎖性)。2人は同じ会社の副社長と一社員であり、上司と部下の関係です。
このように、個人的、時間的、そして空間的に「近い」関係であればあるほど、自分の地位やパートナーを取られるなど、自分の立場を脅かすリスクがあるため、不安(嫉妬)を感じやすくなると言えます。もともと2人は8歳の年齢差であること、隆一の出来が良かったのに対して優は出来が悪かったため、隆一は、優を無意識に見下し、安心していました。ところが、優が力をつけるにつれて、隆一は穏やかではいられなくなっていたのでした。
このように、「近い」関係という点で、兄弟関係(同胞関係)だけでなく、親友関係や夫婦関係においても、実は嫉妬(特に志向性嫉妬)はよく見られます。逆に言えば、社長である父親は年齢や立場が「遠い」親子関係であるため、隆一が父親に憧れることはあっても、嫉妬することはないでしょう。
ちなみに、嫉妬を引き起こす環境因子は、いじめとよく似ています。いじめの心理の詳細については、以下の記事をご覧ください。
●参考図書
1)病的嫉妬の臨床研究:高橋俊彦、岩崎学術出版社、2006
2)嫉妬をとめられない人:片田珠美、小学館新書、2015