連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2024年12月号 映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」【後編・その2】なんで統合失調症は「ある」の?―統合失調症の機能

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・お告げ(幻聴)
・罰当たり(被害妄想)
・「集団統合機能」
・「集団統合仮説」
・伝承の心理
・イデオロギー
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前回(後編・その1)、宗教体験と統合失調症は表裏一体であることが分かりました。そして、宗教体験は、統合失調症と同じ心理現象(幻覚妄想)のプラス面を見ているだけであることも分かりました。そして、統合失調症は、宗教に関連した何らかの存在理由があることをご提示しました。


>>【前回(後編・その1)】

それでは、なぜ統合失調症は「ある」のでしょうか?

今回(後編・その2)は、前回に取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、進化精神医学の視点から、統合失調症の機能に迫ります。

統合失調症の機能って何?

映画版に登場するカーモディさんについても、ドラマ版に登場するナタリーについても、注目する点は、お告げ(幻聴)によって結果的に使命感に目覚め、自らを導いていることです。そして、罰当たり(被害妄想)の断定によって結果的に周りに言うことを聞かせ、集団を導いていることです。

ここで重要なことは、幻覚は幻視ではなく、幻聴である必要があります。幻視だと、言語化する手間がかかるため、お告げほど効果的に集団を導くことが難しくなるからです。だからこそ、統合失調症の典型的な幻覚は、幻視ではなく幻聴だと言えます。

つまり、彼女たちは、幻聴と被害妄想を主症状とする統合失調症を発症していることで、結果的にみんなの気持ちを1つにして、ある意味リーダーシップを発揮していることになります。ただし、これは現代のリーダーシップ(マネジメント)ではなく、あくまで原始の時代のリーダーシップです。この原始の時代とは、人類が抽象的な思考(概念化)をするようになった約10万年前から、文明社会が生まれる約1万数千年前までの期間に遡ります。

この原始の時代の生活環境は、まさに「ミスト」の世界観です。そこは、現代と違って、猛獣がうろつき、飢餓や災害に無力です。現代のように科学の知識によって、自然の仕組みを理解して、その先を予測して、コントロールすることができません。このような自然の脅威の中で生き残って子孫を残すには、より多くの人たちがまとまって協力する必要があります。

そんな時に現れたのが、カーモディさんやナタリーのような統合失調症を発症した「救世主」(リーダー)だったでしょう。彼らこそが、より多くの人数の部族集団をまとめることができたでしょう。これが、統合失調症が存在する理由であり、統合失調症の起源であると考えられます。

進化精神医学的に考えれば、統合失調症は原始の時代にこの集団の統合という特別な役割を担うために進化した心理機能であるという仮説が立てられます。名付けるなら、この機能は「集団統合機能」、この仮説は「集団統合仮説」です。つまり、神のお告げ(幻聴)と罰当たりの境地(被害妄想)は、部族をまとめるために必要であったというわけです。

もちろん、カーモディさんやナタリーのように、神の怒りを鎮めるという口実で生け贄を差し出そうとするなど、とんでもない人権侵害であり、まったくもって不合理です。しかし、結果的にその集団はこれ以上なくまとまっていきました。そもそも、原始の時代に人権などありません。人権尊重は、個人主義が広がった現代ならではの発想であり、価値観です。