連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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それでは、現代ではなぜ統合失調症はリーダーシップ(集団統合機能)を発揮できなくなったのでしょうか?
その答えは、社会構造(環境)の変化です。統合失調症自体はほとんど何も変わっていないでしょう。変わったのは、社会構造の方です。どういうことでしょうか?
約1万数千年前の農耕牧畜革命で文明社会が生まれ、合理的なものの考え方(合理的思考)が芽生えていきした。すると、その分、統合失調症の集団統合機能は、不合理であるため、通じにくくなっていったでしょう。それでも、シャーマンや巫女など特別な立場で、社会に溶け込んでいました。
さらに時代は進み、約200年前の産業革命で科学が発展し、合理主義が広がっていきました。当時の哲学者ニーチェが言ったように、神は死んだのでした。すると、統合失調症を発症した人たちは、もはや「神のお告げが聴こえる」「悪魔が囁いている」とは言わなくなり、代わりに「頭の中のスピーカーが命令してくる」「怖い人たちの話し声が聞こえてくる」と言うようになりました。また、もはや「罰を受ける」「悪魔に操られる」とは言わなくなり、代わりに「闇の組織に狙われている」「電磁波で攻撃される」と言うようになりました。つまり、当時の社会構造(文化)の変化によって、統合失調症の幻覚妄想の表現も変わってしまったのでした。
これは、語られる内容は、その時代のその社会(文化)によって、より適応的な意味づけや解釈がされ、変化していくという伝承の心理からも説明ができます。社会をまとめるのは、もともと神の存在(原始宗教)という伝承だったわけですが、現代では合理主義や個人主義がもととなった民主主義というイデオロギー(これもまた伝承)に取って変わってしまったというわけです。この詳細については、以下の記事をご覧ください。
実際に、未開の部族の原始宗教においては、部族の長が預言者(シャーマン)を兼務し、宗教儀式を行っていることが多かったという調査結果が報告されています(*2)(*3)。ただ、よくよく考えれば、実はこの状況はその長がシャーマンそのものであり、統合失調症を発症していた可能性も示唆されます。古代日本の卑弥呼が呪術に長けていたことからも分かるでしょう。
このことからも、もともと宗教、リーダーシップ(集団統合機能)、そして統合失調症はともに密接にかかわっていることが分かります。つまり、宗教とは、もともとは統合失調症の集団統合機能が伝承によって体系化され、現代的にアレンジされたものであると言えます。宗教の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。
現代の社会構造では、統合失調症の集団統合機能は、もはや完全に不合理なものとして「心の病」と見なされるようになりました。ただし、宗教体験として語られる場合に限っては社会的に受け入れられ続けました。
ちなみに、この集団統合機能のメカニズムが現代で悪用されたものが、マインドコントロールです。この詳細については、以下の記事をご覧ください。
実は、今回の「集団統合仮説」によって解ける統合失調症の謎があります。そして、その謎解きは、同時にこの仮説の根拠にもなります。どういうことでしょうか?
次回に、詳しく解説します。
>>【後編・その3】こんなにユニークなのに・・・だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!? ―統合失調症の疫学
*2 「日本大百科全書(ニッポニカ) 「原始宗教」の意味・わかりやすい解説」:小学館
*3 「ヌアー族の宗教 下」p.223、p.230、p.232:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、1995