連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2024年12月号 映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」【後編・その3】こんなにユニークなのに・・・だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!? ―統合失調症の疫学

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・発症率
・ダンバー数
・好発年齢
・回復率
・「集団分裂仮説」
・オープンダイアローグ
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前回(後編・その2)、統合失調症の機能とは、原始の時代に部族集団をまとめることであるという仮説を立てました。そして、「集団統合仮説」と名付けました。


>>【前回(後編・その2)】

この仮説によって解ける統合失調症の謎があります。

今回(後編・その3)は、前回にも取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、この「集団統合仮説」から、統合失調症の疫学的な謎を3つ解いてみましょう。

なんで昔から世界中で100人に1人が発症するの?

統合失調症になると、周りで誰も話していないのに声が聞こえてきたり、周りから何かされるのではないかと思い込んでしまい、社会生活が難しくなるわけですが、これほど症状がユニークであるにもかかわらず、このような人は、実は100人に1人はいます。みなさんが学校に通っていた時、その学校で同じ学年(100人程度)にいた知り合いのうち、1人はその後にこの心の病気を発症している計算になり、実はとても身近な病気です。この割合は、他の国でもだいたい同じです。しかも、100人に1人は、昔から大きく変わらないようです。

1つ目の謎は、発症率(有病率)です。この答えは、原始の時代の部族集団の人数がちょうど100人程度だからです。その人数の集団に1人の統合失調症のリーダーが生まれるように進化したと考えることができます。この100人という数は、実際に原始の時代の部族集団の最終的な最大人数である150人以内に収まっています。この150人という数は、ダンバー数と呼ばれています。この「150人」を超えると、脳(認知機能)が集団のメンバー同士の人間関係を把握しきれなくなることが分かっています。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【ダンバー数】

よくよく考えると、この発症率の数値は絶妙です。その理由を、部族集団の人数が少ない場合、ちょうど良い場合、多い場合の3つに分けてそれぞれ考えてみましょう。

①人数が少ない場合

1つ目は、部族の人数が50人以下で少ない場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が0.5人を下回り、生まれない可能性の方が高くなります。しかし、人間に最も近いチンパンジーの群れの平均頭数が60頭であることから、この人数なら人間もチンパンジーと同じように、統合失調症のリーダーがいなくても、集団はまとまることができます。

②部族の人数がちょうど良い場合

2つ目は、部族の人数が50150人でちょうど良い場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が0.5~1.5人となり、ほぼ1人生まれることになり、当然ながら、集団はまとまります。

③人数が多い場合

3つ目は、部族の人数が150人以上で多い場合です。この時、統合失調症のリーダーが生まれる人数が1.5人を上回り、2人生まれる可能性が高くなっていきます。これは、カーモディさんとナタリーが同じ集団にいるようなものです。この2人がすぐに対立するのは、容易に想像できるでしょう。そして、どちらかが自分の信者を引き連れて、「約束の地」(神が約束した新天地)を目指して出ていくでしょう。つまり、集団の人数が多くなりすぎたら、分裂を促す働きもあるわけです。そもそも150人を超えた時点で部族のメンバーたちの脳のキャパオーバーが起き始めます。この状況で、2人目のリーダーが現れて分裂が加速されるのは、集団の機能の維持としてとても適応的です。

この点で、従来の統合失調症の起源仮説である集団分裂仮説が思い起こされます(*3)(*4)。ただし、集団分裂仮説は、統合失調症の人をあくまで「異端児」(アウトサイダー)としてとらえ、主流派から去っていく少数派グループと想定し、分裂することを優位な機能としています。また、先ほどの発症率やダンバー数を考慮していません。

この記事で提唱する「集団統合仮説」というネーミングは、見ての通り、この集団分裂仮説を文字っています。「集団統合仮説」では、統合失調症の人を主流派のど真ん中に想定し、まずまとまることを優位な機能としています。集団の人数が増えすぎた場合に限り、もともといる統合失調症のリーダーとさらに現れた2人目の統合失調症のリーダーによって半々に分裂が引き起こされ、引き続きそれぞれの集団がまとまると説明しています。

なお、冒頭で1学年の人数が100人程度と想定しましたが、この記事をここまで読むと、そもそもダンバー数によって、無意識にも学年の人数や大学の学科の定員が100人程度になるように設定されているとも言えます。