連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2024年12月号 映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」【後編・その3】こんなにユニークなのに・・・だから発症するのは昔から世界中で100人に1人の若者だったの!? ―統合失調症の疫学

なんで先進国よりも途上国で回復しやすいの?

統合失調症は、なんと先進国よりも途上国でより速く回復するというWHOの調査結果が出ています(*5)。

3つ目の謎は、回復率(寛解率)です。この答えは、より原始の時代に近い生活環境(社会環境)だからです。統合失調症の発症率はだいたい同じですが、その後に良くなるかの経過には地域差があることが分かっています。

実際に、回復率が高いのは、先進国よりも途上国であるだけでなく、都市よりも農村であることも分かっています(*5)。イメージだけですと、途上国の方が、貧しく、不便で、正直不潔です。ストレスはとても高そうで、回復しにくそうです。一方、先進国は豊かで、便利で、清潔です。

しかし、よくよく考えると、それは先進国にいる側の、そして統合失調症を発症していない側の発想です。先進国いる場合、合理主義的であるため、ルールが多く、不合理なことを言う統合失調症の人たちの言動はより悪目立ちします。また、個人主義的であるため、人とのつながりが乏しく、孤独になりやすいです。リーダーシップを発揮するチャンスなどいっさいありません。さらに、衛生観念が厳しいため、統合失調症が慢性化した後遺症によって不潔になりがちになると、ますます受け入れられません。

つまり、逆でした。ストレスが高いのは、統合失調症の人たちにとっては先進国であり、都会なのでした。よって、統合失調症の人は、途上国に移住することは現実的ではないにしても、なるべく自然が多い田舎に移住し、その共同体の中で人と触れ合い、マイペースでなるべく自給自足の生活をして、のびのびと暮らすことが適応的であることが分かります。まさに、原始の時代の共同体(部族社会)のイメージです。これは、「自然化」と呼ばれています(*7)。タイトルで「ユニーク」と表現しましたが、実は統合失調症がユニークなのではなく、現代の社会構造が彼らにとって「ユニーク」であるとも言えます。

また、統合失調症のリーダーシップ機能を擬似的に発揮させて安定を図る取り組みとして、オープンダイアローグが挙げられます。これは、統合失調症の人に積極的に(オープンに)おしゃべり(ダイアローグ)をさせて受け止めることで、最近注目されています。よくよく考えると、この取り組みも従来の宗教活動に似ており、理に叶っています。

なお、合理主義、個人主義、清潔主義がより求められる先進国や都市で増悪する精神症状として、認知症の周辺症状(BPSD)も挙げられます。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【認知症の周辺症状の地域差】

ただ、統合失調症は最近、軽症化しているのも事実です(*5)。遺伝素因の保因者は一定数いて発症率は変わらないとは言うものの、さすがに現代の社会構造のままでは、淘汰圧(選択圧)は免れないでしょう。つまり、遠い将来においては、発症率は下っていくことが推定できます。その前兆として、軽症化していると解釈することができます。

まだ残っている謎は?

今回は、統合失調症の疫学をテーマに、その謎解きをしました。しかし、まだ謎が残っています。それは・・・統合失調症は一体どうやって生まれたのでしょうか?


>>【後編・その4】実は躁うつ病から進化したの!?―統合失調症の起源

参考文献

*3 「進化精神病理学」p.195、p.198:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、2023
*4 「臨床精神医学 こころの進化と精神医学」p.843:アークメディア、2011
*5 「統合失調症」p.158、p.192、p.197、p.199:岡田尊司、PHP新書、2010
*6 「標準精神医学 第8版」p.306:医学書院、2021
*7 「統合失調症」p.5、p.169:村井俊哉、岩波新書、2019