連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・躁うつ病(双極性障害)
・遺伝率
・共通の遺伝因子
・ランク理論(社会的地位理論)
・前適応
・「躁うつ病起源説」
・敏感さ(過敏性)
・創造性
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前回(後編・その3)、統合失調症が昔から世界中で100人に1人発症する謎、青年期に発症する謎、途上国や田舎で回復しやすい謎を、この記事で提唱する「集団統合仮説」から解き明かしました。
しかし、まだ謎が残っています。それは・・・統合失調症は一体どうやって生まれたのでしょうか? ヒントは、躁うつ病(双極性障害)との謎の関係です。
今回(後編・その4)は、前回にも取り上げた映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を踏まえて、統合失調症と躁うつ病の謎の関係から、「統合失調症は躁うつ病から進化した」という仰天の仮説を立てます。そして、いよいよ統合失調症の起源に迫ってみましょう。
まず、統合失調症と躁うつ病の相違点と共通点をそれぞれ3つの項目に分けて、その謎の関係に迫ってみましょう。
なお、躁うつ病の詳細については、以下の記事をご覧ください。
①疫学
まず、疫学においてです。その相違点として、一番は繁殖成功率です。統合失調症は男性20%、女性50%でかなり低下しているのに対して、躁うつ病は男性75%、女性85%で比較的に保たれています(*8)。
一方の共通点として、遺伝率は、統合失調症も躁うつ病もほぼ同じく約80%です。共通の遺伝因子は、躁うつ病の発症因子全体の約40%を占めています(*9)。実際に、家族歴では、統合失調症と躁うつ病は同じ家系に混在していることが多いです。ちなみに、うつ病の遺伝率は約40%で、ストレスとの関係の方が大きいことが指摘されています。
発症率は、統合失調症も躁うつ病もほぼ同じく約1%で、性差がない点も同じです。ちなみに、うつ病は、約10%程度と高く、男性よりも女性が2倍多いです。
発症年齢は、統合失調症も躁うつ病もほぼ同じく20歳代が多いです。ちなみに、うつ病の発症年齢は、ストレスとの関係から中高年も多く、幅広いです。
つまり、疫学的に、実は躁うつ病は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことが分かります。
②治療
次に、治療においてです。その相違点として、統合失調症には抗精神病薬、躁うつ病には気分安定薬を主に使います。
一方の共通点として、統合失調症にも気分安定薬、躁うつ病にも抗精神病薬を併用することが多いです。実際に、抗精神病薬に気分安定薬を追加することで増強効果が発揮されるため、統合失調症の治療にも有効です。また、昨今の抗精神病薬は、抗幻覚妄想作用だけでなく気分安定作用もあり、気分安定薬として代用できるため、躁うつ病にも適応があります。
ちなみに、うつ病への気分安定薬の効果は限定的です。逆に、躁うつ病への抗うつ薬の効果は無効です。それどころか、抑うつ状態から躁状態に転じるリスクもあります。
つまり、治療的にも、実は躁うつ病は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことが分かります。実際に、躁うつ病は、うつ病と誤診されると治療薬が違うので問題になりますが、統合失調症と誤診されても治療薬がほぼ同じなのであまり問題にならないです。
治療薬の詳細については、以下の講演ページの真ん中の「メンタルヘルス系」をご覧ください。
③経過
最後に、経過においてです。その相違点として、統合失調症は陽性症状(敏感さ)と陰性症状(鈍感さ)を繰り返し、躁うつ病は躁状態と抑うつ状態を繰り返します。症状の中身(内容)としてはもちろん違います。そして、統合失調症には残遺症状(後遺症)があるのに対して、躁うつ病にはないです。
一方の共通点として、統合失調症の陽性症状と躁うつ病の躁状態、統合失調症の陰性症状と躁うつ病の抑うつ状態はそれぞれ重なります。つまり、名称が違うだけで、実は統合失調症の経過(形式)は、躁うつ病(双極性障害)と同じく2つの相(エピソード)を繰り返す「双極性」(循環性)です。
ちなみに、うつ病の経過は、再発する場合は反復性ではありますが、「双極性」(循環性)ではなく「単極性」です。
つまり、経過的にも、実は躁うつ病は、うつ病よりも統合失調症に断然近いことが分かります。
統合失調症と躁うつ病は共通点が多すぎて、もはや同じ病態の症候群で、ただ表面的な症状だけで別々に分類されているにすぎないとも言えそうです。実際の脳画像の研究においても、統合失調症と宗教体験は同じ脳領域が過活動になっていることをその1で触れましたが、さらに躁うつ病もこれらと同じ脳領域が過活動になっていることが分かっています(*10)。
また、躁うつ病とうつ病は同じ気分障害に分類されていながら、意外にもこの2つの正体は全く別物であることも分かります。