連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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統合失調症の「躁うつ病起源説」についてご説明してきました。従来から、統合失調症の起源仮説として、創造性が挙げられています。統合失調症は、人類が創造性という能力を進化させた時の副産物であるという仮説です。確かに、創造性と幻覚妄想は、紙一重です。創造性とは、まさにないものあるかのように感じて表現することであり、作為体験に通じます。しかし、創造性は起源ではないと考えられます。
その理由は3つあります。1つ目は、創造性が生まれたのは、早くても約5万年前であり、7万年前の出アフリカよりもあとです。もしも創造性が起源だとしたら、統合失調症の発症率などに地域差が生まれることになってしまい、世界共通であることを説明できなくなるからです。
2つ目は、創造性が起源だとすると、その3でご説明した発症率、好発年齢、回復率の謎のどれも説明できなくなるからです。
3つ目は、創造性が「集団統合機能」のように生存や生殖の適応度を直接高めることがなく、進化の選択圧(淘汰圧)としては弱いからです。
つまり、創造性もまた「集団統合機能」の副産物と言えるでしょう。創造性の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。
ボスザルからリーダーに
約20万年前に人類が言葉を話すようになり、約10万年前に抽象的な思考(概念化)ができるようになってから、敏感さ(過敏性)を得た人は、その超越的な存在の実感を神と呼ぶようになったでしょう。しかも、もともと躁状態であったことから、確信して断定的に言ったでしょう。こうして、躁うつ病のボスザルになる機能は、統合失調症のリーダーになる機能に拡張されていったのです。これが、その2でご説明した「集団統合仮説」です。
統合失調症と同じく躁うつ病も発症率が1%であることから、おそらく100人の部族には最終的に躁うつ病と統合失調症が1人ずついたことになります。おそらく、生活環境(社会環境)が安定している時はハイテンションの躁うつ病がそのままボスとなり、逆に生活環境が不安定な時はカリスマ的な統合失調症がリーダーに台頭するという役割分担をしていたのかもしれません。
現在の調査研究でも、感染症が蔓延して生活環境が不安定な亜熱帯の地域ほど、宗教の数が増えていくことが分かっています(*10)(*14)。そのような地域の人々は、まさに映画版のカーモディさんやドラマ版のナタリーのような教祖(統合失調症)にすがってしまうのでしょう。実際に、その時代の社会情勢が不安定な時にこそ、カルトを含む宗教が盛り上がるのは、日本も含め歴史から学ぶことができます。
よくよく考えると、約20万年前から私たち現生人類(ホモサピエンス)の脳は構造的にも遺伝的にも大きく変わっていないです。この点を踏まえると、人類の概念化の能力や一部の人(統合失調症)の霊感の能力(超越的な存在の実感)は、約20万年前の時点ですでに潜在的に備わっていたと考えられます。それらが、ようやく約10万年前になって言葉によって表現され共有され、顕在化したのでしょう。
つまり、10万年前から7万年前(出アフリカ)の3万年間は、統合失調症が進化した期間ではなく、すでに進化していた統合失調症の歴代のリーダーたちが「集団統合機能」を言葉(伝承)によって文化的に発展させる、つまり原始宗教を確立する期間であったのでしょう。そして、この原始宗教が約7万年前にようやく確立したからこそ、その時点でアフリカからの大規模な拡散、つまりグレートジャーニー(大陸大移動)が始まったのでしょう。
かつてのアフリカのサバンナのボスザルは、「約束の地」(神が約束した新天地)へと導くリーダーになっていった・・・統合失調症の起源に根気強く迫っていくなか、そんな人類史の壮大な歴史にまで思いを馳せてしまいます。
なお、さらに20万年前よりも以前に遡った概念化の心理機能とは、そもそも目の前にないものを存在として認識する心理機能(象徴機能)が考えられます。この詳細については、お化けの起源として、以下の記事をご覧ください。
確かに、神とお化けは同じく、姿がよく分からないし、何かされそう・・・実は神はもともとお化けだった・・・!?
*8 「進化精神病理学」p.195、p.214:マルコ・デル・ジュディーチェ:福村出版、2023
*9 「標準精神医学 第8版」p.306、p.329:医学書院、2021
*10 「宗教の起源」p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、2023
*12 「ヌアー族」pp.323-324:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、2023
*13 「ヌアー族の宗教 下」p.231:エヴァンズ・プリチャード、平凡社、1995
*14 「友だちの数は何人? ダンバー数とつながりの進化心理学」P127:ロビン・ダンバー、インターシフト、2011