連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
********
・象徴機能
・被害念慮
・心の理論
・空想上の友達(イマジナリーフレンド)
・三項関係
・サイン言語
・伝承の心理
・神の起源
********
みなさん、お化けは怖いですか? 小さい子どもは怖がりますよね。それにしても、なぜお化けは怖いのでしょうか? そして、なぜ親は小さな子どもにお化けが来るぞと脅すのでしょうか?
これらの答えを探るために、今回は、絵本「ねないこだれだ」を取り上げます。「シネマセラピー」のスピンオフバージョン、「絵本セラピー」としてお送りします。この絵本を通して、お化けを怖がる心理とその起源を、発達心理学と進化心理学の視点から掘り下げます。これらを踏まえて、より良いお化けの怖がり方をいっしょに探ってみましょう。
絵本「ねないこだれだ」は、子どもが夜になかなか寝ないでいると、お化けがその子どもをさらい、いっしょに夜空の闇に消えていくというシンプルかつ恐ろしいストーリーです。
まず、お化けを怖がる心理を大きく2つ挙げて、発達心理学の視点から整理してみましょう。
①姿がよく分からない
絵本の表紙を見ての通り、お化けのフォルムは、いわゆる魂のイメージのようにぼうっとしていて、全体的に白く、足がなくて宙に浮いています。まさに何かが「化け」て出てきているような、得体の知れない存在です。ちなみに、お化けに足がないのは日本独特で、世界的にはお化けに足はあります(*1)。
1つ目の特徴は、姿がよく分からないことです。つまり、本来は見えないものです。特に、夜はものが見えにくいので、お化けは夜に現れるという設定も納得がいきます。 また、夜は眠気から意識レベル(認知機能)が下がって見間違い(錯視)が起きやすいので、同じくお化けは夜に現れるという設定は理に適っています。
それでは、本来は見えないものなのに、小さな子どもはどうやってお化けを認識するようになるのでしょうか? 言い換えれば、子どもはいつからお化けを怖がるようになるのでしょうか?
1歳までは、見知らぬ人や大きな音など、その瞬間に目の前で見えたり聞こえたものだけを怖がります。もちろん、一人ぼっちになることへの不安(分離不安)や真っ暗闇であることへの不安(暗闇恐怖)は、もともとあります。しかし、お化けと言われても怖がりません(*2)(*3)。まだ目の前にいないものを認識できず、お化けの意味が分からないからです。
2歳後半からようやく、目の前にいないものを認識できるようになり、それがお化けと呼ばれることを知ります(*3)。このように、言葉によって目の前にない(いない)ものを含めて何かを認識する心理機能は、象徴機能と呼ばれています。この機能の始まりは、生後9か月目に親が指を差した方向や視線を向けた方向と同じ方向を見ることです。
この時に、自分が見えていなくて相手が意図している何かをイメージするようになります。それは最初、「ママ」「パパ」や「ご飯」「お花」など実際に存在する具体的な人や物であるわけですが、やがて目に見えない抽象的なものにも広がっていきます。その最初が、お化けでしょう。つまり、生まれて最初に想像した目に見えないものはお化けということになります。
ちなみに、2歳半という年齢は、目がない顔の絵に目を描き入れることができるようになる時期と一致しています。つまり、ざっくりとした形を言葉と紐づいてイメージすること(概念化)ができるようになり、「ない」ものや「いない」ものも言葉によって認識できるようになる時期であると言えます。
なお、象徴機能の詳細については、以下の記事をご覧ください。