連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2024年11月号 絵本「ねないこだれだ」なんでお化けは怖いの? なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?―お化けの起源

お化けを怖がる起源とは?

お化けを怖がる心理は、姿がよく分からず、何かされそうであることが分かりました。そして、親が子どもにお化けを怖がらせるのは、しつけに利用できるからであることも分かりました。それでは、そもそもお化けはどうやって生まれたのでしょうか?

ここで、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を体だけでなく心にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測し、人類がお化けを怖がる起源を3つの段階に分けて迫ってみましょう。

①目の前にいないものを認識する

人類は、約700万年前に誕生してから、二足歩行をすることで手が自由になり、手に入れた獲物を余分に持ち歩けるようになりました。その余分な獲物を特にオスがメスにプレゼントして、メスはそのお礼にセックスをして、そのオスとの間にできた子どもを育てていました。これは、プレゼント仮説と呼ばれています。この時、オスとメスとの間にはプレゼントを介した関係(三項関係)が成り立ちます。例えば、指差しや視線の向きで、「それちょうだい」「それあげる」というプレゼントのやり取りをするようになったでしょう。これが、指差し(意図共有)の起源です。人類に最も近いチンパンジーでも指差しはしないことから、これは、最初の人間らしさの1つでしょう。心の発達に置き換えると、指さしが分かるのは生後9か月です。

やがて、指差しや視線のやり取りは、「あのプレゼントちょうだい」「あのプレゼントあげる」のように、自分が見えていなくて相手が意図している何かをイメージするようになるでしょう。

1つ目の段階は、相手のしぐさや表情によって目の前にない(いない)ものを認識することです。当時はまだ言葉を話すことができなかったため、コミュニケーションはもっぱらしぐさ(ジェスチャー)や表情などのサイン言語でした。これが、象徴機能の起源です。

心の発達に置き換えると、象徴機能によって、目の前にいないもの(お化け)を認識するようになる2歳半です。つまり、人類がお化けを認識していたのは、人類の心の進化のかなり早い段階である可能性が推定できます。もちろん、当時は「お化け」という言葉はないわけですが、目に見えなくて得たいの知れない何かの存在を認識はしていたでしょう。

なお、プレゼント仮説の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【プレゼント仮説】

②目の前にいないものの意図を考える

約300万年前、人類は家族そして部族をつくり、助け合うようになりました。この時、相手と意図を共有するだけでなく、その意図は自分の意図とは別々である、つまり相手には相手の心(意図)があることが分かるようになりました。これが、心の理論の起源です。その後、長い時間をかけて、目の前にいない存在(お化け)の意図も気にするようになったでしょう。

2つ目の段階は、目の前にいないものの意図を考えることです。そして、その存在に何かされそうと不安に思ったでしょう(被害念慮)。心の発達に置き換えると、お化けにはお化けの心(意図)があると思うようになるのは、4歳です。当時に、お化けを表すジェスチャーが用いられていたかもしれません。

③目の前にいないものを怖がり怖がらせる

約20万年前に、人類が言葉(音声言語)を話すようになりました。当時から、部族で起きた出来事を語り継ぐようになったでしょう。約10万年前、人類は貝の首飾りを信頼の証(シンボル)としてプレゼントするようになり、抽象的な思考ができるようになりました。当時から、語り継ぎの中で説明ができない現象は、お化けの仕業と説明され、その物語はどんどん抽象化されていったでしょう。そして、部族が団結して秩序を安定させるため、お化けを脅威として利用もしたでしょう。これは、民間伝承という文化であり、伝承の心理です。実際に、その中の多くには教訓(モラル)が盛り込まれています。そして、その罰として登場するのは、お化けのほかに、幽霊(ゴースト)、化け物(モンスター)、鬼(悪魔)、万物の精霊(アニミズム)、そしてへと発展していったでしょう。逆に言えば、神の起源はお化けと言えるでしょう。

3つ目の段階は、社会のために目の前にいないものを怖がり、周りを怖がらせることです。心の発達に置き換えると、お化けが細分化されるのは3歳から6歳です。そして、この時期にお化けと教訓を含む多くのファンタジーの絵本が親から読み聞かされるわけです。

人類史において、最初の抽象的思考は、貝の首飾りを信頼の証(シンボル)とする約10万年前とされています。しかし、心の発達の視点では、お化けを怖がるのは2歳半であるのに対して、首飾りなどのシンボルが分かるのは早くても4歳ぐらいです。このことから、もしかしたらお化けを怖がる方が、抽象的思考としては貝の首飾りよりも先だったと考えることもできるでしょう。むしろ、お化けを怖がり怖がらせるという伝承の心理を通してこそ、人類の抽象的思考(概念化)が発達したと考えることもできるでしょう。

なお、伝承の心理の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【伝承の心理】

★グラフ1 お化けの起源