連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2024年11月号 絵本「ねないこだれだ」なんでお化けは怖いの? なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?―お化けの起源


②何かされそうである

この絵本の最後の2ページは、「おばけの せかいへ とんでいけ」「おばけに なって とんでいけ」と語られ、締めくくられます。その1ページ目の絵には、子どもがお化けに引っ張られて、宙に浮いており、子どもの足はすでにお化けと同じく足がなくなっています。その2ページ目は、夜空に2つのお化けのシルエットが浮かび、すでにその子どもは完全にお化けにされてしまったことがほのめかされています。これは正直、大人が見てもギョッとします。

2つ目の特徴は、何かされそうであることです。正体が分からないからこその怖さに加えて、親から教えられたり、まさにこのような絵本から知ることで、特殊能力の使い手であるお化けは、想像上の怖いものとして刷り込まれ、実際に子どもを怖がらせる存在になるわけです。

幼児における恐怖の対象の研究では、お化けという存在は、一人ぼっちでいること(分離不安)や真っ暗闇の中にいること(暗闇恐怖)と並んで最上位に位置します(*2)。これらの恐怖には、やはり何かされるのではないかという不安(被害念慮)が結びついています。

ちなみに、ある3歳児がお化けのふりをして大人たちを怖がらせているうちに、だんだん自分自身が恐くなって泣き出すという報告があります(*3)。この現象は、4歳以降では起こりません。そのわけは、4歳に、相手には相手の心があると分かる心理機能(心の理論)が発達し、自分とお化け(相手)の心を分けることができるようになるからです。

この心の理論の発達とあいまって、3歳から6歳にかけて、姿が分からなくて何かされそうな存在は、お化けのほかに、幽霊(ゴースト)、化け物(モンスター)、鬼(悪魔)などとより具体的となり、細分化されていきます(*3)。そして、良いこともしてくれる妖精や天使、さらには万物の精霊(アニミズム)、恩恵と同時に罰も与えるに発展していきます。ちなみに、話しかけてくるなど実際にいるかのような空想上の友達(イマジナリーフレンド)として現れる心理現象を引き起こす場合もあります。

子どもにお化けを怖がらせる効果とは?

以上より、ただでさえ子どもはお化けを怖がるのに、なぜ親は子どもにお化けが来るぞと脅すのでしょうか?

この絵本でお化けは、夜中にぬいぐるみを持って立ち歩いている子どもを発見し、「あれ あれ あれれ・・・」と言います。そして、「よなかに あそぶこは おばけに おなり」と言い渡します。つまり、お化けはやみくもに何かしてくるわけではなく、特に言いつけを守らなかった時にやってくることが分かります。まさに、「ねないこだれだ」というタイトルがそれを示しています。

つまり、子どもにお化けを怖がらせるのは、子どもがお化けを怖がることを利用して、しつけをするためであることが分かります。しつけとは、生活習慣から人間関係のマナーなど、社会のルールを教えることです。これは万国共通で、英語圏だと「いい子にしないと、ブギーマン(化け物)がさらいに来るよ」と言います。