【1ページ目】2025年6月号 映画「シンシン」【その1】なんで演じると癒されるの?-演技の心理
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・カタルシス
・エモーション・フォーカスト・セラピー
・メタ認知
・マインドフルネス
・仲間意識
・友情
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みなさんは、演じるのは好きですか? 演じるのを見るのは好きですか? それでは、なぜ演じるのでしょうか? なぜ演じるのを見たいのでしょうか?
今回は、映画「シンシン」を通して、演技の心理をテーマに、その機能を掘り下げてみましょう。
なんで演じるの?-演技の機能
舞台はアメリカニューヨーク州の最重警備刑務所シンシン。主人公のディヴァインGは、無実の罪で25年もの期間で収監されています。そんな彼の心の支えは、更生プログラムの1つである演劇グループに所属して、日々仲間たちと演劇に取り組むことでした。ある日、シンシンいち恐れられている元ギャングのマクリンがやってきて、自分もやってみたいと言い出し・・・
それでは、まずいくつかのシーンを通して、演技の機能を3つ挙げてみましょう。
①感情を解き放つ-カタルシス
マクリンは、エジプトの王様の役になるのですが、最初セリフに集中しすぎて、表情がいまいち冴えません。その時、ディヴァインGは、「きみはこの刑務所いちの王様だよな。そんな気分で演じてみたらどうかな?」と助言するのです。すると、マクリンは急に目の色を変えて「おれはこの刑務所の王様だ!おれがここを支配している!」とアドリブで言い出し、まさにエジプトの王様のように振舞うのです。表情が生き生きとして、気分も良さそうです。
実は、彼は以前からいつも疑心暗鬼になり、常にナイフを持ち歩き、素直な感情を押し殺して生きてきたのでした。そんな彼が、演劇に出会い、自由に自己表現することの喜びを知ったのでした。
1つ目の機能は、感情を解き放つ、カタルシス(浄化)です(*1)。これは、演技という枠組みの中で抑えていた感情を自由に出すことで、気持ちのわだかまりを洗い流し、すっきりすることです。ただ感情を爆発させるのは社会で受け入れられませんが、演技というルールのなかでは逆に好まれるというわけです。ちょうど、暴力は社会では受け入れられませんが、格闘技というルールのなかでは逆に好まれるのと似ています。
このカタルシスは、その演技を見る観客も味わうことができます。それは、観客が演技する演者に共感することで、カタルシスを追体験できるからです。
なお、その演劇グループに外部から来ている演出家のブレントは、「怒りの演技は簡単だ。難しいのは傷つく演技だ」と説明していました。この理由は、怒りがストレートな単一感情(一次感情)であるのに対して、傷つく感情は悲しみや怒りなどの基本感情と、恥や悔しさなどの社会的感情が織り交ざり見え隠れする複合感情(二次感情)だからです。ちょうど、その後に仮釈放委員会で却下を伝えられた時のディヴァインGの表情(この映画のなかでは演技ではなく真の表情)が当てはまります。
ちなみに、このような感情に焦点を当てて気づきや受容を促す心理療法は、エモーション・フォーカスト・セラピー(感情焦点化療法)と呼ばれ、この映画の演劇グループのウォーミングアップのシーンでたびたび行われていました。