【4ページ目】2025年7月号 NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー
プレイセラピーとは?
もしも、子どもが1人で地震ごっこをやっている場合は、どうでしょうか? もちろん、見守ることができます。さらに、PTSDへの対応の観点から、セラピスト、さらには家族や親しい人たちがその遊びに加わり、自然な気持ちを促し、いっしょに楽しむことができます。これは、プレイセラピー(遊戯療法)と呼ばれています。
例えば、子どもが「地震だー」と言い、体を揺らしていたら、いっしょにいる人は「逃げろー」と合いの手を入れ、いっしょに走り回ります。一通り走り回ったら、最後は「逃げれたー。助かったー。良かったねー」というセリフを言うのです。途中で、近所の人を助ける演技を入れるのもいいでしょう。こうして、助け合っていることをいっしょに喜び合うことで、地震があっても助かったストーリーをいっしょにつくることができます。
ただし、あくまで子どもが自然に遊んでいる状況に乗っかるのがポイントです。逆に、「地震ごっこをしよう」などと最初から誘導しないことです。これは、先ほどの心理的ディブリーフィングと同じく、トラウマ反応を強化させるリスクがあります。
また、ごっこ遊びのテーマとなるトラウマ体験が、災害ではなく、虐待・誘拐・殺人などの犯罪の場合はより専門的な介入が必要になり、場合のよっては止める必要があります(*2)。その理由は、「虐待ごっこ」「誘拐ごっこ」「殺人ごっこ」になってしまうからです。これは、災害の環境と同じように、虐待・誘拐・殺人などの環境に子どもが無意識に適応しようとするわけなのですが、相手に傷つけられるまたは傷つけるという不適切なコミュニケーションの練習をしてしまうおそれがあるからです。これは、子どもが傷つけられる人を繰り返し演じることで自己肯定感を低くして、さらに傷つける人を繰り返し演じることで攻撃性を高めるリスクがあります。
「心の傷を癒すということ」とは?
ラストシーンで、安先生が「心のケアって何か分かった。誰も、ひとりぼっちにさせへん、てことや」と悟ったように言うシーンがあります。このセリフから私たちは、子どもにしても大人にしても、PTSDの症状は、単に困ったネガティブなものではなく、お互いの援助行動を引き出し、連帯感を促すポジティブな機能であり、能力であるととらえ直すことができます。そうして、子どもも大人もトラウマを乗り越えて成長した状態は、PTG(心的外傷後成長)と呼ばれます。
実は、この映画は実話をもとにしたストーリーです。実在した人物である故・安克昌先生のドキュメンタリーでもあり、なんと阪神淡路大震災で実際に被災した人たちがこのドラマの避難所のエキストラとして出演していました。このドラマに関連した番組(*3)では、エキストラに参加したある元被災者の女性について、「自らの記憶をたどり、心の奥にしまっていた感情に気づき、折り合いをつける。ドラマ作りに参加することが心の傷を癒す小さなきっかけになったのかもしれません」とナレーションで説明されていました。
このように、大人もトラウマ体験を再演することで、PTGになることができるでしょう。人類が長らく演じることでコミュニケーションをしてきた進化の歴史を踏まえると、その子孫である現代の私たちは、言葉よって普段抑制している感情(演じる心理)を体全体でもっと自由に解放することができるのではないでしょうか? つまり、私たち大人も、子どもと同じようにもっと「ごっこ遊び」(演技)を生活のなかで生かすことができるのではないでしょうか?
なお、演技の効果(機能)の詳細については、以下の記事をご覧ください。
参考文献
*1 「災害後の時期に応じた子どもの心理支援」p.19、p.126、p.212:冨永良喜ほか、誠信書房、2018
*2 「子どものポストトラウマティック・プレイ」p.27:エリアナ・ギル、誠信書房、2022
*3 「100分de名著 安克昌 “心の傷を癒すということ” (4)心の傷を耕す」:宮地尚子、NHKテキスト、2025年1月