【3ページ目】2025年7月号 NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー

子どものPTSDにどうすればいいの?


地震ごっこが「ある」のは、さまざまなごっこ遊び(現実世界のコミュニケーションの再現)のレパートリーの1つとして、人類が特に災害に対して助け合うためのコミュニケーション能力を進化させたからであることが分かりました。そして、フラッシュバックも赤ちゃん返りも、進化の歴史で獲得した機能であることが分かりました。

この点を踏まえて、子どものPTSDにどうすればいいでしょうか? その対応を大きく3つ挙げてみましょう。

①ただいっしょにいる

その1でも触れましたが、「今、揺れとぅ?」「なんかな、ずっと揺れとぅ気がすんねん」というフラッシュバックの症状を訴えた小学生の男の子に対して、安先生は、「大丈夫や。揺れてへん」と力強くも温かく言います。そして、いっしょに荷物を運ぶのです。

1つ目の対応は、ただいっしょにいることです。そして、助け合うことです。これは、原始の時代に進化した社会脳に通じます。逆に言えば、何か特別なことをする必要なありません。安静にすることでもありません。一番大事なことは、なるべく普段と変わらない日常生活のなかで、体が安全であること、そして心が安全であることを、時間をかけて感じてもらうことです。

②自然な気持ちを促す

安先生は、その男の子に「ちゃんと眠れてるんか?」「何か話したいことあったら、何でもいいな」と問いかけると、「ええわ、僕よりつらい目に遭うた人いっぱいおるし」と返されます。すると、安先生は「お~我慢して偉いな・・・って言うと思ったら大間違いや。こんなつらいことがあった。こんな悲しいことがあった。そういうこと、話したかったら、遠慮せんと話してほしいねん」「言いたいこと我慢して飲み込んでしもうたら、ここ(子どもの心臓を指して)、あとで苦しくなんで」と言います。男の子から「おじいちゃんに男のくせにそんなに弱いかって笑われる」と漏らされると、安先生は「弱いってええことやで。弱いから、ほかの人の弱いとこが分かって助け合える。おっちゃんも弱いとこあるけど、全然恥ずかしいと思うてへん」と力強く言います。

2つ目の対応は、我慢せずに自然な気持ちを促すことです。この点で、地震ごっこに対しては、やはりまず見守ることです。実際に、東日本大震災のあとに観察された多くの地震ごっこでは、子どもたちが楽しんでやっていることが分かっています(*1)。もちろん、けがや暴力になりそうなら止める必要がありますが、基本的には見守るだけで十分です。

逆に言えば、話したくないのに、話すように促すことはしないことです。これは、心理的ディブリーフィングと呼ばれ、トラウマ体験をできるだけ早い時期に語らせて、気持ちを吐き出させることで、かつてアメリカの9.11の同時多発テロによるトラウマ体験への治療として注目されました。しかし、その後に実際には有効ではないという研究結果が相次いで報告され、トラウマ反応を強化させる可能性までも指摘されました(*1)。これは、PTSDを心の進化における機能としてとらえたら、当然でしょう。これは、子どもだけでなく、大人にも当てはまります。

安全が確認されていないのに避難訓練をやらないのと同じように、心の安全(心の準備)が保たれていないタイミングで、語らせたり、演じさせたりは絶対にしないようにする必要があります。

この点を踏まえて、東日本大震災の被災地の学校で、震災当時の絵を描かせたり、作文を書かせたり、語りをさせるなどの震災体験の表現の取り組み(防災教育)が行われましたが、それにあたって、少なくとも震災から1年が経っていること、事前に生徒たちに伝えて心の準備をしてもらうこと、嫌だったらやらなくていい(ほかにやりたいことをしてもいい)という選択肢を示すことなどのきめ細かい配慮がされました(*1)。

③楽しめることを促す

その後、小学校の避難所でのまとめ役でもある校長先生が、安先生に「子どもらの遊ぶ場所、作られへんかなと思てな」「毎日、枕元で地震ごっこされたらかなわんからな」と笑いながら、「キックベース、どうですか?」と誘います。なんと、校長先生が、子どもたちのために、キックベースのイベントを開いたのでした。

3つ目の対応は、楽しめることを促すことです。これは、地震ごっこだけでなく、子どもが楽しめるポジティブなことなら何でもありです。なぜなら、何もしないと、トラウマ体験の記憶が頭のなかを占めてしまい、フラッシュバックをより引き起こしてしまうからです。そうではなくて、代わりに楽しい記憶を頭のなかに占めて、フラッシュバックを起こしにくくするのです。

なお、大人のPTSD(トラウマ)への対応の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【大人のPTSD(トラウマ)への対応】