【3ページ目】2025年6月号 映画「シンシン」【その1】なんで演じると癒されるの?-演技の心理

③助け合おうとする―仲間意識

マクリンは、もともと一匹狼で、最初はディヴァインGたちに怒りをむき出しにして、何度も食ってかかっていました。ディヴァインGがマクリンを助けようと思い仮釈放委員会へのレポートを作っても、マクリンは断ろうとします。しかし、毎回メンバーたちが輪になって気づいた自分の弱さやありのままの感情を語り合い、いっしょに演技の練習をしていくうちに、マクリンは少しずつ心を開いていきます。やがて、彼は「みんなといっしょにいれば、また自分を信じられるかもしれない」としみじみ言うのです。

そんななか、ディヴァインG自身の仮釈放の申請が却下となるなどいろいろ不遇なことが重なり、ディヴァインGはその絶望から演劇の練習中に「何も進歩していない。何が喜劇だよ。とんだお笑い草だ」と暴言を吐き、逃げ出します。すると、数日してマクリンがディヴァインGのところにやってきて、「今度はおれがおまえの力になりたいんだ。おまえがそうしてくれたように」と言い、手を差し伸べるのです。救う側と救われる側という立場がお互いに入れ替わりながら、彼らはより人間らしくなっていくのでした。

3つ目の機能は、助け合おうとする仲間意識です。これは、演技の練習など共通の目的に向かっていっしょに何かをするという相互作用から、お互いに気にかけるようになることです。ここから分かることは、「最初から好きだから助け合う」のではないということです。逆です。「助け合うから好きになる」のです。そして「好きになったからさらに助け合う」のです。これが、友情の心理です。そしてこれは、アルコール依存症などの自助グループにも通じます。

なお、友情の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【友情の心理】


>>【その2】演じること危うさは? じゃあどう演じる?-サイコドラマ

参考文献

*1 「サイコドラマをはじめよう: 人生を豊かにする増野式サイコドラマ」p.25、増野肇、金剛出版、2024