【6ページ目】2011年 映画「私は『うつ依存症』の女」情緒不安定性パーソナリティ障害
行動療法―人生のルール作り

リジーは、なりふり構わない行動により、親友を散々ひどい目に合わせても、その後に困ったら泣きついて助けを求めようとします。さすがの人のいい親友もあきれ果て、最後は「もう無理」と冷ややかに見限ります。限界設定です。こうして、リジーは親友、恋人を失っていき、誰からも相手にされなくなっていくということを肌で感じていきます。また、リジーがセラピストの目の前でリストカットをしようとした時のセラピストの対応は圧巻です。セラピストは無言で見つめ続け、彼女がガラスの破片を落としたところで、立ち去っていきます。決して、優しくはしないのです。これは、自分の行動は自分で責任をとらなければならないという静かでそして強烈なメッセージです。そのためのかかわりとして必要なことは、対人距離が不安定なリジーに対して、セラピストは常に冷静で節度ある一定の距離を保ち、巻き込まれないように細心の注意を払っているのです。対人関係のルールや生活の枠組みを作り、目標が達成できたら得をして、問題行動を認めたら自分で責任を取らせて損をする条件付けにより行動を変化させる仕組みも効果的です。これを行動療法と言います。
現実問題として、この障害が良くならない要因の一つに、過保護な家族や共依存的な恋人が過剰な関わりをしてしまい、巻き込まれて失敗の尻拭いをするなど、本人に自分で責任を取らせていないために、同じ過ちを繰り返すという悪循環に陥ることがよくあります。ただ、年を経ると大抵の患者が落ち着いていきます。その理由として、心が揺れるエネルギーが年を経てなくなってしまう点、本人が学習する点、そして周りも学習して距離をとる点があげられます。例えば、この障害は魅力的な若い女性が多いのですが、中年になればその魅力が失われて、構ってくれる男性がいなくなるこということがあげられます。
薬物療法

リジーは薬を飲むことでずいぶんと「うつ」が良くなったと言っています。情緒不安定による対人トラブルで、うつ、不安、不眠などの様々は二次障害を引き起こします。これらに対しての薬物療法はあくまで対症療法であり、残念ながら特効薬はありません。
原題は、”Prozac Nation”という「抗うつ薬の国」で、抗うつ薬の処方がアメリカの社会問題としてレポートしたスタイルをとっています。
シネマセラピー

情緒不安定性パーソナリティ障害になってしまった主人公の視点を通して、彼女の心の揺れや苦しみが見ている私たち自身と重なる部分、家族や友人と重なる部分に私たちは気付き、より良く理解し、そして見つめ直すことができます。
それは、自分や他人のできることとできないことの限界や境界をはっきりさせて理解することを通して、自分を大切にして自分を見失わないこと、他人を大切にして他人を失わないことです。そこから、リジーの問い続けた「真の愛」が、自分本位に相手を愛することではなく、相手の立場に立って相手を尊重し、一定の心地良い距離を保つことでもあるというより広い視野に立つことができるのではないでしょうか?その時に私たちは共により良い生き方を見い出し、自分の子どもへのかかわり方のあるべき形も自然と見えてくるのではないでしょうか?