【4ページ目】2012年11月号 ドラマ「モンスターペアレント」クレームにどう対応する?-孫子の兵法
【客観化】―第三者にも分かるようにする
ラストシーンで、ホールに集まった大勢の保護者の前で、ステージに立った樹季は呼びかけます。「子どもたちはいつも大人を見ています」「もっと目線を下げて考えて」と。この呼びかけは、「子どもにどう見られているか」という視点を気付かせたことで、保護者たちに響く言葉でした 。
最後のポイントは、第三者にも分かるようにする(客観化)ことです。
掟破り―暴言・暴力
お引き取りを願っても引き下がらない場合は、どうしたら良いでしょうか?例えば、その場で暴言を吐き始め、他の患者や職員に迷惑が及ぶようになった場合は?さらに、立腹して暴れた場合は?
そこで、騒ぎを起こすまいとしてこちらが折れて、譲歩しないことです。逆に、助けを呼んで騒ぎにして、人を集めることです。集まった人はその場の目撃者になります(客観化)。相手は、人に囲まれることになり、数で圧倒されることになります。そして、このままでは警察通報することを伝えます。この時点で、たいていのモンスターは引き下がりますが、それでも引き下がらない場合は、実際に警察官に来てもらいます(客観化)。
もう1つ重要な対策があります。それは、書面に残すという記録だけでなく、録音もすることです。これは、記録者の役割です。録音は証拠として残るため、自分自身の言葉を振り返る心理(自己内省)を相手に促し、無言の抑制力にもなります。録音をすることを事前に相手に伝えるわけですが、「録音してもいいか」と伺うのではなく、「録音をとらせていただきます」「重要な案件に対してきちんとした対応をするため、必ず録音をとって万全な対応をとるのが当院の決まりとなっております」と笑顔で宣言するのがポイントです。さらには、防犯カメラが露骨に見えるような部屋を話し合いの場にするのも手ですし、あえてダミーの防犯カメラを設置する一工夫も有効です。そして、了承されないのであれば、やはりお引き取りを願うことになります。
私たちも患者も、後で誰かに「見られる(知られる)」可能性があるという視点を持つことで、私たちは「やるべきことをやっている状況だ」、患者は「しょうがない状況だ」とお互いに納得することができて、ルールと中立性を得ることができるのです。
「先手必勝」―先回りして手を打つ
これまでは要求を突き付けられてからの対応を見てきました。しかし、その前に、私たちにはまだできることがあります。
孫子の兵法で「勝ってから戦え」、つまり、明らかに勝てる状況を作ってから戦えという教えがあります。これは、私たちの対応において、先回りして手を打つ「先手必勝」、つまり、事前対策です。さらに、理想的には、潜在モンスターがモンスター化せずに、つまり普通の人のままでいてくれる、つまりは、「戦わずして勝つ」ことが一番望ましいわけです。
「敵を知る」―モンスターのタイプ
先回りして手を打つには、まず、「相手を知る」、つまり、相手の特徴をよく分かっている必要があります。その特徴を、対応別に、3タイプに分けてみましょう(表2)。どのタイプかを見極めることで、接し方も変わってきます。
まずは、話を通じさせないタイプです。ドラマでは給食費を払いたくないために、言い訳を次々と用意して煙に巻こうとする保護者がいました。このタイプの特徴は、金銭目的や愉快犯で、反社会的集団が関わっている場合もあり、早い段階で、警察や司法の介入が必要になります(客観化)。
次に、話が通じないタイプです。「遠足を延期してください」「「私、(不吉な未来が)見えるんです」と言い張る「霊感モンスター」の保護者も登場しました。樹季に「そんなの思い込みよ」と一蹴されても、聞く耳を持ちません。このように「霊感」で周りを巻き込むなど、もはや理屈やルールなどへの理解力に限度がある場合(疎通性不良)は、精神障害の疑いとして、早い段階でその人の家族や警察の保護が必要になります。
最後に、話が通じるタイプです。実際に問題が起きて、一時的に感情的になっているだけですので、時間と場所を改めて、話し合いのルールを提示すれば、解決の見通しが比較的に立てやすいです。
「己を知る」―自分にできることとできないことを先に伝える
事前に手を打つために、自分たちはどこまでできるかという自分たちの限度を知ることが大切です。そして、それを病院の掲示板や患者への案内書などで目に見える形にすることです(客観化)。
みなさんがよく聞くモンスターの常套句は、「聞いてないよ」ではないでしょうか?何ごとも先に伝えることが大切ということになります。例えば、意見箱や相談窓口に寄せられた実際の不満とその対応を目に見える形にすることです。同時に、暴言・暴力は断固反対とのメッセージの貼り紙を貼るのも有効です。
さらに、要求を記入するための「提案書」を定型化し、具体的な内容と解決策の項目を盛り込み、話し合いの時間、場所の記入欄を設け、人数制限や録音する決まりを明記することも効果的です。
提案書例(日付・場所無記入例はコチラ)
元データ
teiannsyo.pptx へのリンク
teiannsyo.pdf へのリンク
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」
ある教育委員会のメンバーの口癖が、「モンスターと気安く呼ぶな」でした。確かに、「モンスター」というネーミングはとてもウケが良い例えで、レッテル貼り(ラベリング)になる心配もあり、このネーミングを使う時は慎重になる必要があります。ただ、世の中にはこういう人たちが実際にいるのも現実です。そして、樹季自身、教育委員会の仕事を通して、世の中にはいろいろな価値観があり、分かり合う必要があることに気付いていきます。
ドラマ「モンスターペアレント」を通して、彼らの存在や生まれる状況をよりもっと知っていくことで、私たちは「ああはなりたくない」と自分自身を振り返ることができます(客観化)。そして、「どうすべきなのか」との新たな職業倫理や、もっと言えば、「自分はどう生きていけばいいのか」との人生哲学の枠組みを見いだすことができます(構造化)。さらには、「自分には何ができるか」との見極めをするようになることで(限界設定)、世の中をより良く生きていくことができるのではないでしょうか?
参考文献
「モンスターペアレント」(中経出版) 本間正人
「モンスターペイシェント対策ハンドブック」(メタ・ブレーン) JA徳島厚生連 阿南共栄病院 教育委員会 編





ページトップへ