【3ページ目】2013年7月号 ドラマ「泣かないと決めた日」フレネミーとは?

噂好きの心理―裏切り者のあぶり出し

万里香は、食堂で、美樹の同僚たちのテーブルにあえて座り、さり気なく漏らします。「寿退社するまでは、(いじめを上層部に言い付けるのを)我慢するって言ってました」と。この言葉に、美樹に対しておもしろく思っていない同僚たちは食い付きます。このように、私たちは、噂、特に葛藤を抱えている集団のメンバーについての噂に敏感です。

そう私たちを駆り立てるのは、何なのでしょうか? 進化論的には、噂好きの心理の役割は、他人とつながる際のリスクである騙し、つまり裏切りをあぶり出すことです。このあぶり出しにより、次の裏切りによる被害を未然に防ぐことができますし、さらには裏切りに対しての抑止も働きます。噂は、20万年前に言葉を話すようになった私たちの祖先(ホモ・サピエンス)の時代から、表情を読み取ることと並んで、裏切りの有力な判断材料であったと言えます。かつては、共同体のあるメンバーの裏切りが成功したら、残りのメンバーたちの生存が脅かされる状況があったのでしょう。だからこそ、現代の私たちは良い噂よりも悪い噂に敏感で、例えば事件、ゴシップ、ワイドショーが大好きになってしまったと言えそうです。

さらに、噂は、単にその時の共同体の間だけでなく、世代を超えて続くこともありました。もはやその噂は、語り継ぎ(物語)や言い伝え(伝説、神話、宗教)として、共通の意識を持つことでもあり、共同体への帰属意識を高める役割も果たしています。また、同時に、それは、共通の生きる知識や知恵(文化)として、共同体の生存の確率を高める役割も果たしていたでしょう。この噂から語り継ぎや言い伝えを好む遺伝子を持つ種の末裔は私たちです。だからこそ、私たちは、映画、ドラマ、小説などのストーリーを好むのでしょう。

自尊心―裏切り者だと思われたくない

万里香が成りすました美樹のブログには、同僚たちの悪口がこれでもかと書き込まれていました。それを発見した同僚たちは、美樹に激怒します。一方、美樹は、正体不明の犯人の悪意に、もはや怒りを通り越して打ちひしがれます。このように、私たちは、他人の噂以上に、自分の噂にとても敏感です。都合の悪い自分の噂、ましてや自分が裏切り者に仕立て上げられるデマなどには、怒りがこみ上げ、傷付きます。

このように揺さ振られる心の動きは何なのでしょうか? それは自尊心(誇り、プライド)です。自尊心は、自らを尊ぶ心、つまり自分を大切にする気持ちです。これは、集団の中で期待に応えたい、そしてより良い評価を得たいという欲求(承認欲求)に支えられています。よって、この大きさの物差しになるのは、周りからの評判です。つまり、私たちの自尊心は、噂を含む評判によって、揺れ動いていると言えます。だからこそ、私たちは裏切り者だと思われることが最も苦痛なのです。

原始の時代、集団での狩りの際、道具を作る役、追い立てる役、仕留める役などそれぞれの役割がありました。そのどの役割が自分にできるか主張することこそが、自尊心の源です。そして、この自尊心は、「認められたい」「よく思われたい」という心理から「軽くみられたくない」「なめんなよ」という心理に置き換えられます。これは、威嚇や牽制としての怒りでもあります(ディスプレイ)。

このように、言われっぱなしで好き勝手にさせない、そして、はめられないようにする心の働き、つまり自尊心を持つ種が生き延びました。私たちにとって、自尊心は、集団に貢献するだけでなく、裏切り者に仕立て上げられないためにもなくてはならない心理と言えます。