連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2020年1月号 ドラマ「マザーゲーム」【前編】-ママ友付き合い、なんで息苦しいの?【「女心」の二面性】

「女心」とは?-女性性の心理

ママ友付き合いの難しさの原因は、群れる(同調性)、格付けする(比較癖)、仲間外れにする(排他性)という3つの特徴があることが分かりました。

その根っこにあるのは、女性ならではの普遍的な心理、ずばり「女心」(女性性)です。ここから、さらに「女心」をそれぞれ3つの心理に整理して、「女心」とは何かを解き明かしてみましょう。

①つながりやすさ-共感性
希子が幼稚園に入った当初、聡子(準ボスママ)は、「最初のランチ会に不参加だと、希子さんだけじゃなくて、はるとくん(希子の息子)もクラスに溶け込めなくなると思うの」と親切に助言しています。本来、子ども同士というものは勝手に仲良くなっていくものですが、聡子は母親同士が仲良くなければ、子どもも仲良くならない、もっと言えば、仲良くさせない・させてもらえないと考えています。このように、聡子をはじめ多くのママは、母親である自分の延長上に子どもがいると考え、子どもの主体性を認めません。

由紀(もともと希子の親友だったママ)は、希子に対して「サマースクール(受験対策)は辞退するべき。あんたみたいに遊び半分できてるんじゃないの」「私がどんな思いで・・・」と迫っていきます。由紀は、親友であった希子が自分の気持ちを察するのは当たり前だと思っています。本来、子どもの受験をするかしないかは、親の自由であるはずなのに、由紀はその自由に干渉してきています。

1つ目の「女心」は、つながりやすさです。このつながり(関係性)が強ければ強いほど、自分と相手の境界(バウンダリー)がはっきりしなくなります。このプラス面は、相手の気持ちになりやすい、つまり共感性です。

一方、その裏返しであるマイナス面は、相手の気持ちに流されやすい、つまり同調性です。これは、先ほどの群れる心理につながります。さらには、逆に相手が自分の気持ちになるよう強いる心理に発展します。「共感の押し付け」です。そして、相手の主体性や自由を尊重しにくくなっていきます。言い換えれば、境界がはっきりしないことによって、自分の縄張りだけでなく、相手の縄張りも曖昧にしてしまいます。「人は人、自分は自分」という発想がしにくくなるわけです。この心理によって、子どもの日記を勝手に見てしまいます。また、ママ友の話に気軽に割り込んで一方的に自分の話をし続けてしまいます。共感性が高いからと言って、人格者、聞き上手とは限りません。

②気付きやすさ―感受性
幼稚園の新年度の式典で、先生が子どもたちと保護者たちに「誕生会などのパーティは禁止。新年会、クリスマス会などの全てでプレゼント交換をすることは、お控えいただきたく存じます」と念押しします。希子が「子どもが自発的に友達にプレゼントしたいという時もあると思うんです。どうしてだめなんでしょうか?」と質問したところ、先生は「子どもというのは大変に傷つきやすい存在です。お友達が誕生会に呼ばれたのに、自分が呼ばれなかった。そしたら、その子はどう思うでしょうか?」「過保護だと思われるかもしれませんが、これは全て、お子様たちの心を守るためのものです。なにとぞルールを厳守していただきたく存じます」と説明します。これは、子どもたちというより、敏感な保護者たちに向けられたメッセージです。

2つ目の「女心」は敏感さ、つまり気付きやすさです。この気付きが強ければ強いほど、相手の気持ちをいち早く察知できます。このプラス面は、相手の言動に鋭くなる、つまり感受性です。例えば、よく気が利くことです。また、アンテナを張るために、噂好きでもあります。

一方、その裏返しであるマイナス面は、違いに敏感になる、つまり比較癖です。これは、先ほどの格付けする心理につながります。さらには、逆に格付けされる、つまりおとしめられたり仲間外れにされることにも敏感になります。気付きやすさは、傷付きやすさにもなる諸刃の剣なのです。この心理によって、習い事で自分の子どもが他の子どもと同じように褒められないと腹を立てたり、ママ友から「仕事をしている」と聞いただけで「偉そうだ。マウンティングされた」とひがみっぽくなってしまいます。さらには、「幸せそうにしないで。幸せじゃない人への気遣いがない」と相手を巻き込んでしまいます。

③受け身になりやすさ-安全性
由紀(もともと希子の親友だったママ)は、「バックは女の値札。女の価値。これがあるから、私はあの幼稚園で自信を持って歩いていられる」と希子に言い切ります。また、「桜子(由紀の子ども)のお受験を成功させるしか、周りからすごいね、がんばったねと言われることがないから」とも言います。彼女は、自分がどうしたいかではなく、どう見られるかにばかりにとらわれています。

また、あるママは、仲良しだったママに「うそつき!メイシン女子は受験しないって言ったくせに。あなたの子が受験したから、うちの子が落ちたじゃない!」と怒り出します。抜け駆けされたと思ったのでした。そして、子どもの前でママ同士が、バッグで叩き合うのです。このママは、受験がうまく行かなかったのは、自分や自分の子どもの力不足ではなく、相手のママの裏切り行為が原因であると決め付けています。

3つ目の「女心」は、受け身になりやすさです。受け身になればなるほど、何かをすることに伴うリスクがなくなります。このプラス面は、危険を避ける、つまり安全性です。

一方、その裏返しであるマイナス面は、他の危険も排除しようとする、つまり排他性です。これは、先ほどの仲間外れにする心理につながります。さらには、危険を探す、つまりあら探しに発展します。なぜなら、受け身であればあるほど、暇を持て余すからです。

また、同調性から、出遅れるだけでなく、出し抜かれることにも敏感です。また、味方か敵をはっきりさせようとします。なぜなら、先ほど触れた、つながり(関係性)が強ければ強いほど自分と相手の境界(バウンダリー)をはっきりさせなくなるということは、裏を返せば、つながりが弱ければ弱いほど、自分と相手の境界(バウンダリー)をはっきりさせることでもあるからです。そして、敵と認定した相手には集団で徹底的に無視します。これは、積極的に働きかけないという意味で受け身の攻撃です(受働攻撃性)。

同時に、受け身であるため、自分の行動に責任感がなくなります。この心理によって、「私の気持ちを察してよ」と周りに不平不満を言い続けたり、うまく行かなかった時には、「止めてくれなかったあなたが悪い」と人のせいにしてしまいます。また、「私はだめだ」と自己否定しておきながら、「そんなことないよ」とフォローされないと、不機嫌になってしまいます(試し行為)。

「女心」はなぜ「ある」の?-女性性の進化心理

「女心」(女性性)とは、つながりやすさ(共感性)、気付きやすさ(感受性)、受け身になりやすさ(安全性)という3つの心理があることが分かりました。それでは、そもそも「女心」はなぜ「ある」のでしょうか? 「女心」の3つの心理に重ねながら、その起源を進化の歴史から探ってみましょう。

私たちの体が原始の時代から進化してきたのと同じように、実は私たちの脳、つまり心も進化してきました。ここから、「女心」の進化を、3つの段階に分けてみましょう。

後編に続く »