連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2021年5月号 アニメ「インサイドヘッド」【続編・その2】意識はどうやって生まれるの?

②モニター装置-「ワイプ画面」によって自分は自分であると思い込ませる

5人の小びとたちは、スクリーンを通してライリーを見ています。一方、ライリーは小びとたちが見えるようには描かれていません。その理由は、おそらく、この映画の演出上、頭の中を小びとたちに擬人化させているため、ライリーに小びとたちが見えてしまうと、視聴者が混乱するからでしょう。実際は、11歳であれば、何となくぼんやりと頭の中の小びとたちのせめぎ合いが、スクリーンに映し出されるワイプ画面に「見えて」います。例えば、ライリーが転校先の教室で自己紹介をしている時に急に泣き出すシーンで、小びとたちは右往左往していますが、ライリーは、周りの生徒たちを見ながら、きっと「さっきまでミネソタの楽しい思い出を話していたのに、急に悲しくなっちゃった」と「見えて」(思って)いるでしょう。ライリーのママやパパなら、もっとはっきりとしたワイプ画面に小びとたちの会議が「見えて」いるでしょう。つまり、大人になればなるほど、テレビのワイプ画面を見るように、小人たちの働きぶりを自分の意識の中で俯瞰(モニター)するようになります。

2つ目は、モニター装置です。意識が見ているのは、自分の心と体そのものではなく、脳がつくったモニター(ワイプ画面)ということです。このモニター装置によって、自分と周り(他人)の違いに注意が向き(自他境界)、自分は周り(他人)とは違う存在である(自己覚知)、つまり自分は自分であると思い込まされています(自己意識)。

これは、このモニター装置の「故障」によって、確認することができます。例えば、頭部外傷や脳血管障害による前頭葉(主に右前頭葉)の障害では、我慢ができなくなる脱抑制が見られます。これは、自分の行動をモニターできないために、脳が短絡的になり、我慢ができなくなっていることが考えられます。また、これがもともと「故障」している自閉スペクトラム症では、相手の気持ちや状況だけでなく、自分の気持ちや状況にも気づきにくいです。

逆に、このモニター装置が過剰に作動すれば、誰かに見られているという感覚(被注察感)や誰かに操られているという感覚(統合失調症の作為体験)も出てくるでしょう。稀ですが、このモニター装置が分離して作動すれば、頭の中に複数の人格が共存している多重人格(解離性同一性障害)になるでしょう。そう考えれば、これらの精神症状は、それほど不思議な現象ではないことも分かります。これらは、自己意識の障害(自我障害)と呼ばれています。

実際に、自己の顔認知の実験によって、このモニター装置(自己を感じる脳活動)の部位が判明しています。この実験では、「私は考える」という言葉が添えられた自分の顔写真と、「彼は考える」という言葉が添えられた有名人の顔写真を見比べた時の、fMRIにおける脳の部位の活動性の違いを評価しました。すると、自分の顔写真を見た時に、より高い活動性が見られたのは、右前頭葉でした。この結果は、先ほどの半側空間無視、病態失認、身体失認、そして脱抑制が右半球の障害で多いことに合致します。

つまり、自分が自分であると思わせるモニター装置は、主に右前頭葉で生まれるということです。

ちなみに、このモニター装置を心理療法に応用したのが、マインドフルネスです。これは、自分の体感や五感を意識的に研ぎ澄ますことで、モニター装置をフルに作動させます。そうすることで、さらに舞台装置もフルに作動させて、意識レベル(覚醒度)を上げるという取り組みです。なお、マインドフルネスの詳細については、以下の関連記事をご覧ください。

>>★【マインドフルネス】※2019年8月号 絵本「ZOOM」「RE-ZOOM」-どうキレキレに冴え渡る?