連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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出自を知る権利が認められた場合、精子提供から約20年の時を経て、その子どもは精子ドナーを特定できることになります。ということは、親も精子ドナーを知る可能性があります。さらに、精子ドナーがその子どもや親を知る可能性もあります。すると、ある法的な問題が顕在化します。
ここから、映画の登場人物を通して、起こりうるトラブルを大きく3つあげてみましょう。
①子どもが精子ドナーに認知を求める
ポールは、もともと家庭を持つ気がなく、独身の人生を楽しく送ってきました。精子バンクから連絡があった時も、面倒にはかかわりたくないという思いから、最初は戸惑っていました。ところが、生物学的な子どもであるジョニとレイザーとかかわっていくうちに、ポールは変わっていきます。普通の父親のように、子どもたちの生き方にあれこれ口出しするようになるのです。そして、子どもたちもまんざらでもない様子なのです。
1つ目のトラブルは、子どもが精子ドナーに認知を求めることです。これは、精子を提供された親が受け入れないでしょう。日本では、生殖補助法が成立したとは言え、あくまで理念にすぎず、精子ドナーが法的な親になれないとする規制は明文化されていません。
さらに、精子ドナーの死後に認知が請求された場合には、精子ドナーから生まれた子どもと遺族の間に遺産相続のトラブルを引き起こす可能性もあるということです。
②精子ドナーが子どもの認知を求める
ポールは、やがてジョニの母親であるニックから「口出ししないで」と言われてしまいます。さらにややこしいことに、ポールはレイザーの母親のジュールスと不倫関係になるのでした。実は、ジュールスはバイセクシャルであり、ニックとは倦怠期を迎えていたからです。やがて、ジュールスはニックに不倫がばれてしまい、2人は離婚の危機を迎えます。そんな中、ポールは、ジュールスに「いっしょになろう。おれが子どもたちを引き取るから」と言い出し、勝手に家に押しかけてくるのです。
2つ目のトラブルは、精子ドナーが子どもの認知を求めることです。これも、精子を提供された親が受け入れないでしょう。先ほどにも触れた規制が日本にはないため、精子ドナーの気が変わった場合、認知を請求し、親権を求めるトラブルに発展する可能性があるということです。厳密には、親権は、ジョニのように成人した子どもへはないですが、レイザーのように未成年の子どもへはあります。
③精子を提供された親が精子ドナーに子どもの認知を求める
精子を提供されたニックとジュールスは、精子ドナーであるポールとかかわりたいとは思ってきませんでした。これは、生まれたジョニとレイザーが健康で優秀であるという前提があります。もしもジョニやレイザーが遺伝疾患を発症したり知的障害が判明したら、どうでしょうか? その治療や養育に多額の費用がかかるとしたら、どうでしょうか? その遺伝的な原因となっている精子ドナーに責任を問いたくならないでしょうか?
3つ目のトラブルは、精子を提供された親が精子ドナーに子どもの認知を求めることです。これは、精子ドナーが受け入れないでしょう。なお、精子バンクは、障害の発症については免責事項を設けています。先ほどにも触れた規制が日本にはないため、障害の発症によって多額の治療費や養育費がかかる場合、精子を提供された親の気が変わって、その費用を負担してもらうために、精子ドナーに認知を請求するトラブルに発展する可能性があるということです。