連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2022年1月号 アニメ「ちびまる子ちゃん」【続編】その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?【社会適応能力】

なんで性格は「ある」の?

家庭環境ではなく学校環境で高まる心理は、相手にしてほしいという好奇心(快感)、相手にされないという恐怖心(不安)、相手にされているという連帯感(同調)であることが分かりました。そして、これらの心理が、「世間慣れ」(自発性)、「ストレス慣れ」(セルフコントロール)、「弱者慣れ」(共感性)という非認知能力を高め、性格に影響を与えることが分かりました。それでは、そもそもなぜ性格は「ある」のでしょうか? その答えを、心の進化の歴史から掘り下げて見ましょう。

約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に家族をつくり、さらにその血縁から部族をつくるようになりました。この時、部族(社会環境)の中で狩りや子育てのためにお互いに協力し合うように進化しました(社会脳)。例えば、それが、周りの人とうまくやっていくために自分で考えて行動すること(自発性)、周りの人に対して自分を落ち着かせること(セルフコントロール)、周りの人と心を通わせること(共感性)などの非認知能力です。そして、この非認知能力を高めた「性格」の人類が、より生き残り、より子孫を残したでしょう。

つまり、性格はただ「ある」のではなく、生存と生殖のために「ある」のです。これが、なぜ性格が「ある」かの答えと言えるでしょう。

そもそも性格とは?

進化心理学的に考えると、性格は、人類が社会環境の中で生存と生殖の適応度を上げるために「ある」ことが分かりました。つまり、性格とは、社会適応するための機能であり、非認知能力と同じ「能力」であると言えます。その能力を名付けるなら、社会適応能力です。

逆に言えば、この社会適応能力を、私たちが「性格」と定義し、その評価尺度をつくっただけにすぎないとも言えます。そう考えれば、性格に家庭環境の影響に違いがないのは何も不思議なことではないことが分かります。

性格を機能として見ると、性格とは、家庭環境の刺激にある程度一様に反応した非認知能力を基盤として(家庭環境の影響の違いはないながら)、さらに特定の学校環境(家庭外環境)の刺激に多様に反応したそれぞれの非認知能力の高まり具合(または高まらない具合)のバリエーションの結果であると言えるでしょう。

★グラフ2 社会適応能力としての性格

そもそも、家庭環境は、親などの家族から無条件に守られているため、家庭環境だけでは社会適応能力としての性格を形成することができないとも言えます。逆に、教育虐待を含むマルトリートメント(不適切な子育て)は、無条件に守られていない家庭環境である点で、「マルトリートメント適応能力」が高まってしまいます。その分、社会適応能力が偏って高まるリスクがあるとも言えます(代償性過剰発達)。ということは、逆に、学校環境(社会環境)にいながら人間関係が抑制されたエリート教育のような特殊な状況においては、「エリート適応能力」が高まってしまう分、社会適応能力が必ずしも高まらないリスクがあるというわけです。これが、先ほどにもご紹介した自己愛性パーソナリティ障害です。

なお、現時点で、エリート教育と自己愛パーソナリティ障害の因果関係を明らかにした研究はあまり見当たりません。しかし、エリート意識という言葉があるように、エリートならではの認知の偏り(自己愛性パーソナリティ)があるのは明らかでしょう。この傍証として、児童期・青年期の性格への家庭外環境の影響力が挙げられるのです。

ちなみに、この自己愛性パーソナリティをはじめとして、最初にご紹介した性格の分類におけるキャラクターたちは、社会適応能力が偏ることに伴い、それぞれの性格の特性が顕在化していることが分かります。

じゃあどんな学校がいいの?

エリート教育のリスクを踏まえて、その性格形成への影響を掘り下げました。それでは、どんな学校が良いのでしょうか? 

その答えは、その学校が社会の縮図であるような、ほどほどに良い学校です。そんな学校が、社会適応のための性格という「能力」をバランス良く高めるでしょう。その点で、いくらエリート教育にリスクがあるからと言って、学級崩壊をしている学校に無理に通う必要もありません。そこは、エリート学校と同じく、もはや社会の縮図ではないため、転校を検討するべきでしょう。

この「ほどほどに良い」という言い回しは、完璧な子育てを目指さない「グッド・イナッフ・マザー(ほど良い母親)」という発達心理学の用語に重なります。つまり、学校に置き換えると、完璧な教育を目指さない「グッド・イナッフ・スクール」です。なぜなら、それが結果的に、最適な子育てと同じように、最適な教育になるからです。ちびまる子ちゃんの教室のように、そこにはいろんなクラスメートがいた方が良いです。極端な話、変わった(性格に偏りのある)教師がいても良いです。なぜなら、世の中にはそんな人がいるからです。なお、「グッド・イナッフ・マザー」の詳細については、以下の記事をごらんください。


>>【グッド・イナッフ・マザー】

もちろん、これは、ちびまる子ちゃんたちがいる小学校の話です。中学校になると、エリート教育を受けるかはもはや本人の意思です。そして、その決断を強いるのではなく、ほど良くサポートすることが、「グッド・イナッフ・マザー」であり、その子どもがほど良く希望して進む学校が「グッド・イナッフ・スクール」と言えるのではないでしょうか? さらに、そうする子どもが大人になって人生にほど良く幸せを感じることができるのではないでしょうか?

★表1 性格の機能

※参考図書
1)ちびまる子ちゃん大図鑑DX:フジテレビ、扶桑社、2015
2)DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引)、アメリカ精神医学会、医学書院、2014
3)「心は遺伝する」とどうして言えるのか:安藤寿康、創元社、2017