連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2022年8月号 ドラマ「ドラゴン桜」【中編】実は幻だったの!? じゃあ何が問題?【教育格差】

【参照】行動遺伝学とは?

①原理

一卵性双生児(遺伝子一致率100%)と二卵性双生児(遺伝子一致率50%)の行動(心理的・行動的形質)が、それぞれにどのくらい一致するかを比較する双生児法を主に用います。簡単に言うと、一卵性双生児の行動の一致率が100%にならない場合、その差し引かれた分(それだけ似させまいとする要素)が家庭外環境(非共有環境)の影響となります。また、一卵性双生児の行動の一致率に二卵性双生児の一致率が50%を超えて迫ってきている場合、その迫ってきている分(それだけ似させようとする要素)が家庭環境(共有環境)の影響となります。ここから、ある行動における遺伝、家庭環境、家庭外環境のそれぞれの影響度を算出することができます。

例えば、日本語と英語を両方話すという行動(語学力)について、日本語と英語が同じように飛び交っている家庭では、一卵性双生児も二卵性双生児も同じように日本語も英語も話す可能性は高まります(一卵性に二卵性の一致率が迫ってくる)。そのため、語学力は、家庭環境の影響があると言えます。実際に、語学力における双生児の一致率は、一卵性で75%、二卵性で50%であることが分かっています(単純にするために端数を調整)。遺伝子の影響だけで考えれば、一卵性が75%なら、二卵性はその半分の37.5%であるはずです。つまり、37.5%から50%にまで増えて75%に迫ってきている分、それだけ似させようとする要素、つまり家庭環境の影響があると考えられるわけです。

②影響度の算出方法

ここで、語学力における遺伝、家庭環境、家庭外環境のそれぞれの影響度を、実際に算出します。まず、家庭外環境は、一卵性双生児の行動を似させまいとする要素であるため、その影響度は一致しないように差し引かれた分、つまり100%から75%を引いた25%になります。単純な引き算です。

一方、遺伝と家庭環境の影響度については、次のような連立方程式で求められます。遺伝の影響度をX、家庭環境をYとすると、これらが行動を似させようとする要素であるため、一卵性双生児の一致率の式は、X+Y=75・・・①

二卵性双生児の遺伝の影響度は、遺伝子一致率が50%であることから0.5X。家庭環境は同じくY。すると、二卵性双生児の一致率の式は、0.5X+Y=50・・・②

①②から、X=50、Y=25が導き出されます。つまり、語学力は、遺伝、家庭環境、家庭外環境の影響度がそれぞれ50%:25%:25%であると算出することができます。

③注意点

なお、この家庭(親)が子どもを通わせるインターナショナルスクールは、家庭外環境と考えて良いでしょうか? よくよく考えると違います。なぜなら、親の経済力や教育方針が反映されている点で、家庭環境の影響もあります。家庭環境とは、必然的にいっしょにいる親(共有環境)からの影響があるという意味です。一方で、家庭外環境とは、偶然的に出会う親以外(非共有環境)からの影響があるという意味です。物理的な家庭の内か外かという意味ではありません。

つまり、行動遺伝学において、家庭環境と家庭外環境がそれぞれ影響している割合は算出できるのですが、その中身が具体的に何かについては個別の解釈が必要になります。