連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2022年8月号 ドラマ「ドラゴン桜」【中編】実は幻だったの!? じゃあ何が問題?【教育格差】

②高収入の就職先の数の限度

2つ目の見落としは、高収入の就職先の数の限度です。教育格差を問題視する学者は、教育格差が縮まれば、大卒者が増えるので、その分、高収入の人が増えると主張しています。確かに、前編でご紹介したシープスキン効果により、大卒であることによる収入の割り増しはあります。しかし、これは、大学進学率が50%強の現時点での話です。もしも少子化なのに大学を増やし続けて大学進学率が100%に近づいていったら、どうなるでしょうか?

前編でも触れた学歴インフレが激化するだけです。大卒であるだけでなく、東大をはじめとする有名大卒かどうかが新たに価値づけされるようになります。なぜなら、東大の合格者の定員と同じように、高収入の就職先の数は最初から決まっているゼロサムゲームだからです。つまり、大学全入になってしまったら、大卒であるだけではシープスキン効果が働かなくなることが予測できます。これを象徴するのが、最近の「Fランク大学」「学歴フィルター」という言葉でしょう。

以上より、教育(正確には学歴)の格差を是正しようとしたとしても、限られた就職先(階級)を取り合う仕組み自体は変わらないため、けっきょく収入の格差は変わらないと結論づけることができます。むしろ、受験生たちは、より偏差値の高い大学に入ろうと、「受験戦争」が激化します。これは、「学歴の軍拡競争」とも例えることができます。もはや教育は、それ自体が目的ではなくなり、ますます学歴を手に入れるための手段になってしまうでしょう。

③教育効果の妥当性

3つ目の見落としは、教育効果の妥当性です。教育格差を問題視する学者は、教育自体がそのまま職業的に役に立つと主張しています。確かに、専門職や研究職は当てはまるでしょう。しかし、これらは世の中の仕事のごく一部であり、その就職先の数に限りがあります。よくよく考えると、それ以外のほとんどの一般職は、実は中学校までの教育の効果で十分ではないでしょうか? 高校教育は、学力とは別に、社会性(社会適応能力)を高める場所として必要があるとしても、少なくとも大学教育の効果そのものが一般職にあえて必要な理由を証明することは逆に難しいのではないでしょうか?

もちろん、それぞれの職場において個別に求められるスキルを学ぶ必要はあります。しかし、それは職場教育で十分です。語学力や論理的思考能力が必要ならば、働きながら語学学校やビジネススクールに通うこともできます。大学教育である必要がないのです。むしろ、大学教育で実践的なスキルを教える方が難しいです。

以上より、教育(学歴)の格差を是正しようとしたとしても、その教育(大学教育)の効果がそもそも一般職に必要とされていないため、是正する意味がないと結論づけることができます。もっと言えば、多くの人がその教育を積極的に受けたいとも思っていないため、言い換えれば大卒という学歴を手に入れるためにしょうがなく学んでいるため、ますます意味がないことが分かります。

もちろん、教育は単なる効果だけでなく、人生を豊かにするという教育哲学も別にあるでしょう。しかし、繰り返しになりますが、教育の中身そのものを考えれば、この情報化が進んだ現代社会において、それがあえて大学である必要がなくなっているということです。この点で、もはや教育格差(学歴差)が、そのまま教育における機会の不平等を生んでいるとも言えないでしょう。

じゃあ何が収入格差を引き起こしているの?

これまでをまとめると、収入への遺伝の影響度の大きさ、高収入の就職先の数の限度、教育効果の妥当性を直視することによって、教育格差が収入格差を引き起こすというロジックが成り立たないことが分かりました。つまり、実は教育格差は幻だったと言えます。

それでは、何が収入格差を引き起こしているのでしょうか? 教育格差ではないとしたら、多くの人は、努力と運だと答えるでしょう。しかし、行動遺伝学の視点に立てば、それだけでは不十分です。収入に影響を与えているのは、努力や運だけでなく、もともとの素質、つまり遺伝もあげられます。これは、先ほどのグラフ1と2が証明しています。運は、いろいろな人との偶発的な出会い(家庭外環境)が当てはまります。

努力については、努力を好むと言う点で、性格としてとらえることができます。そして、この性格に影響を与えるのは、グラフ3のように、遺伝と家庭外環境です(*4)。なお、この詳細については、以下の関連記事をご覧ください。

★グラフ3 性格への影響度


>>【性格への影響度】

以上より、収入格差を引き起こしている本質として目を背けてはならないのは、遺伝の違い、つまり「遺伝格差」であるということです。

なお、この遺伝をはじめとする行動遺伝学の詳細に興味のある方は、次の3ページ目をご覧ください。


>>【後編】そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?【学歴への選り好み】

●参考文献
*2 「日本人の9割が知らない遺伝の真実」P106-P107:安藤寿康、SB新書、2016
*3 「遺伝マインド」P58-59:安藤寿康、有斐閣、2011
*4 「『心は遺伝する』とどうして言えるのか」P182:安藤寿康、創元社、2017