連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2023年2月号 ドキュメンタリー「WHOLE」【前編】なんで自分の足を切り落としたいの!?【身体完全性違和】

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・幻肢
・「身体認識ネットワーク」
・ラバーハンド錯覚
・気づき亢進
・身体失認
・自己認識
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みなさんは、健康な自分の足を切り落としたいという人がいたら、どう思いますか? 「きっと重い精神障害に違いない」と思いませんか? ところが、実際に足を切断したあとは何の精神的な問題もなく満足して暮らしているとしたらどうでしょうか? そんな彼らは、身体完全性違和と診断されます。簡単に言うと、体が健全(完全)であることに違和感があるという状態です。

今回は、ドキュメンタリー「WHOLE」を取り上げ、この謎に迫ります。なお、このドキュメンタリーは、海外のサイトでレンタルまたは購入して、オンラインで見ることができます。

どんな特徴があるの?

このドキュメンタリーには、切断を希望する人や実際に切断した人が紹介されています。彼らの発言から、身体完全性違和の特徴を主に3つあげてみましょう。

①体の一部分に違和感がある

彼らは口を揃えて、「片足が自分の体につながっていない」「自分のものではない」「異物だ」と言っています。しかも、「その境目が膝から何cm上まで」とはっきり言います。切断したある男性は、子どもの頃から片足に違和感を持っており、当時から彼の日記にはその悩みが書かれ、描いた自画像も片足がありませんでした。

別の男性は、切断してはいませんが、片足を膝で折り曲げて固定し、松葉杖を使って生活しています。そして、「この方が自然だよ」と言っていました。

1つ目の特徴は、体の一部分(ほとんど左足)に違和感があることです。

②命の危険を冒してでもその体の一部分をなくしたいと思う

病院に行っても健康な足を切断してくれる外科医がいないため、彼らは切断してもらうためにあらゆる方法を考えます。ある男性は、大量のドライアイスで違和感のある足を半日凍らせて、凍傷になったことでやっと外科医に切断してもらえました。しかも、何とかして温存を試みようとする救急医に「切断手術をしてくれなければ同じことを繰り返す」と宣言して、温存を断念するよう説得したのでした。

【当時の新聞記事】

★当時の新聞記事

また、別の男性は、自分の足をショットガンで打ち抜いたあと、暴発事故を装い、切断手術をしてもらったのでした。

2つ目の特徴は、命の危険を冒してでもその体の一部分をなくしたいと思っていることです。

③その体の一部分がなくなったら満足する

彼らは全員、その片足を切断してもらったあとは「本来の自分になった」と言い、義肢や松葉杖の生活を穏やかに送ります。「異物」と思う自分の足を切断して、実際に異物である義肢を取り付けるのは奇妙にも思えます。しかし、その片足が「異物」であったというだけで、その他に精神的な問題はありません。例えば、「片足が異物である」という訴えが妄想や強迫観念である場合、たとえ切断したとしても別の妄想や強迫観念が出てきて、訴えは続くでしょう。また、同情を病的に求めるミュンヒハウゼン症候群の場合、切断したら片足であることで同情を得ようとアピールし続けるでしょう。なお、この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>ミュンヒハウゼン症候群

3つ目の特徴は、その体の一部分がなくなったら満足していることです。

なお、身体完全性違和は、もともと身体完全同一性障害と呼ばれていましたが、これまでICD(WHOによる国際疾病分類)やDSM(アメリカ精神医学会による精神疾患の分類と診断の手引き)には掲載されていませんでした。しかし、ICD-11(第11版)への改定に伴い、この診断名として新しく新設されたため、今後さらに注目されていくことが予測されます。その診断ガイドライン(*1)を以下に示します。

★表1 ICD-11の診断ガイドライン