連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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身体完全性違和の原因は、身体認識ネットワークのみの機能低下であることが分かりました。それでは、そもそもなぜ身体認識は「ある」のでしょうか? ここから、その起源を進化の歴史から探ってみましょう。
今から約7億年前に原生動物が誕生してから、他の生物を捕まえて食べるようになりました。この時、最も近くにいる「生物」は自分自身の体です。そこで、間違って自分の体を食べないように、自分の体とそれ以外を区別するようになったのでしょう。また、約3億年前に両生類が誕生してから、威嚇や求愛のために陸で音を鳴らすようになりました。この時、最も聞こえてしまう音は自分自身が出す音です。そこで、自分が出す音とそれ以外の音を区別するようになったでしよう。こうして、自分自身の体や発する音を認識する機能(身体認識ネットワーク)が進化したと考えられます。これが、身体認識の起源です。
例えば、コオロギは、自分の鳴き声が聞こえていないことが分かっています。そのわけは、自分の鳴き声を認識する随伴発射介在ニューロン(身体認識ネットワーク)によって、鳴き声を出す時は聴覚中枢の反応(発火)が抑制されるからです(*2)。このニューロンは線虫からサルまで幅広く確認されています。また、私たち人間は、自分自身をくすぐってもこそばゆくないです。そのわけも、このニューロンによって、感覚中枢の反応が抑制されるからです。
ちなみに、タコは自分の足を食べることが知られていますが、その原因としてウイルス説が有力です。そのメカニズムは、ウイルスによって身体認識ネットワークが働かなくなったと考えることができます。一説によると、タコの知性はとても高く、鏡で自分を認識できるなど自己認識があるようです。自己認識ができるからこそ、身体認識ネットワークが働かなくなると自分の体に違和感を持ってしまい、自分の足を異物として食べてしまうのかもしれません。この点で、タコは身体完全性違和の動物バージョンと言えそうです。逆に言えば、他の動物の多くは、自己認識ができないため、身体完全性違和になることがなく、自分の体を食べることはないと言えるでしょう。
なお、身体認識のあとに進化した自己認識(自己意識)、世界認識(概念化)などの意識の起源については、以下の記事をご覧ください。
※1 精神医学③「ICD-11のチェックポイント」P285「身体苦痛または体験症群」:山田和男、医学書院、2019
※2 私はすでに死んでいる ゆがんだ<自己>を生み出す脳P100、P104、P142:アニル・アナンサスワーミー、紀伊國屋書店、2018
※「足を切り落としたい…」自ら障害者になることを望む人々の実態:美馬達哉、現代ビジネス、2018