連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2023年7月号 NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」【前編】なんで嘘くさくても知りたがるの?【噂好きの心理】

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・承認
・プロパガンダ
・新奇性(サリエンス)
・確証バイアス
・同類性(集団極性化)
・フィルターバブル
・エコーチェンバー
・バッシング
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「フェイクニュース」という言葉は、2016年以降のアメリカやフランスの大統領選挙、イギリスのEU離脱の国民投票などにおいて、よく聞かれるようになりました。なぜフェイクニュースはつくられるのでしょうか? そもそも、私たちはなぜ不確かな情報でも知りたがるのでしょうか?

今回は、NHKドラマ「フェイクニュース」(*1)を通して、噂好きの心理を解き明かし、私たちの心の本質に迫ります。

なんでフェイクニュースをつくるの?

ネットメディアの女性記者、樹(いつき)は、インスタントうどんに青虫が混入していた事件を担当します。取材を進めるうちに、この事件は企業間の紛争を招きます。と同時に、精巧なフェイクニュースも紛れ込んでおり、実は選挙戦に利用されていることに気づくのです。

フェイクニュースとは、読んで字のごとく、偽のお知らせ、事実とは違う情報です。それでは、なぜフェイクニュースをつくるのでしょうか? まずは、その目的を大きく3つあげてみましょう。

①金儲け

樹は、インスタントうどんへの異物混入を訴えている3つのブログの主が同一人物であることを突き止めます。そして、その「潜伏場所」のアパートの一室に取材に行くと、なんと赤ちゃんを抱いた主婦が出てきて、拍子抜けします。その主婦は「これ全部、アフィリエイト(成功報酬型広告)用のブログなのね」「鶴亀うどんにゴミとか羽虫とか入れて・・・そしたらどーんと拡散されたよね」「ブログのアクセス数、過去最高だったの! 今月の広告料、全部合わせて4821円!」と無邪気に話すのです。

1つ目の目的は、単純な金儲けです。新聞社やテレビ局などの企業と違い、個人が情報を発信する場合、匿名にすることができます。すると、偽の情報を出す罪悪感も希薄になり、アクセス数を稼ぐために、嘘もつくという発想になるわけです。

②承認

樹は、青虫混入について最初にSNSに投稿した中年男性の猿滑(さるすべり)への取材を続けます。彼は、自分の主張を世間に分かってもらうため、先ほどの主婦によるブログをはじめ、ネットから真偽不明の情報をかき集めて、さらに投稿していたのでした。その後、取材に来た樹を目の敵にして、「女記者が圧力をかけてきた。消される」と発信します。騒動の末、彼はラストシーンで樹に「たぶん私は、誰かに味方になってほしかっただけなんだ」と打ち明けます。

2つ目の目的は、承認です。当初は、「分かってほしい」という軽いガス抜きのつもりだったわけですが、曖昧なために発信者が意図していなかった誤った情報も拡散させてしまうことになります。それがやがてウケ狙いやいたずらになっていくのです。もちろん、それが常習的になる場合は愉快犯になります。これらは全て、「自分を見てほしい」という承認の心理が根っこにあります。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>承認の心理


③プロパガンダ

樹の上司は、主婦が見つけて猿滑が拡散させた「CSS」(※実在するアメリカのCNNをドラマ内でパロディ化)のネット記事が、フェイクニュースであることを見抜きます。それは、サイトアドレスが巧妙に違っていたのでした。このように、大手のネットメディアを騙(かた)り、ネットニュースを精巧に仕立て上げるのが、狭い意味でのフェイクニュースです。

そのタイトルは「日本の奴隷労働の現状」で、本文は「日本で全国展開しているテイショー・フーズは、自社工場で多くの外国人労働者を雇っている。だが、その現状は奴隷労働に等しく、不当な搾取が行われている。待遇に不満を抱き、わざと異物を混入する者もいると、彼は語ってくれた。」と書かれています。実は、ある県知事選の立候補者が、外国人労働者への不当搾取をでっち上げて対抗馬の評判を落とすために仕組んだものだったのでした。

3つ目は、プロパガンダです。プロパガンダとは、政治的な宣伝です。これによって、選挙で特定の立候補者への投票を誘導することができます。最初にも触れましたが、実際に、2016年にはアメリカやフランスの大統領選、イギリスのEU離脱の国民投票において、多くのフェイクニュースが出回っていたことが指摘されています(*2)。