連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2023年7月号 NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」【前編】なんで嘘くさくても知りたがるの?【噂好きの心理】

なんで嘘くさくても知りたがるの?

フェイクニュースをつくる目的は、金儲け、承認、プロパガンダなどであることが分かりました。それでは、なぜ私たちはフェイクニュースに引っかかってしまうのでしょうか? もっと言えば、フェイクニュースに限らず、なぜ私たちは噂話など不確かな情報でもつい知りたくなってしまうのでしょうか? ここから、この噂好きの心理の要素を大きく3つあげてみましょう。

①びっくりしたいから

樹は上司に「『青虫うどんの真相?』って、真相が記事の中身に書かれていないのに、完全な釣りタイトルです。語尾に?をつければ許されるってものじゃありません」と怒りをぶつけます。自分の記事のタイトルが、上司の指示で書き換えられていたのでした。彼女は「難しい記事はウケない。アホな記事ほど評価される」とボヤいてもいました。

1つ目の心理は、びっくりしたいからです。これは、新奇性(サリエンス)と呼ばれています。例えば、「最新」「天才」などの目新しくて稀なもの(好奇心)、「陰謀」「真相」などの奇妙で不可解なもの(恐怖心)、「不正」「不倫」「差別」などの嫌悪するもの(道徳的感情)に私たちは敏感であることが分かっています(*2)。だからこそ、悪い噂は早く広まり、根拠がない陰謀論がいつも何かしらあるのです。さらに、ニュースが溢れている情報化社会では、これらのより分かりやすい「煽りワード」が優先的に選ばれてしまうというわけです。

この心理を見越して、つくる側は、ますます過激なタイトルのわりに中身(根拠)のないニュースを量産します。この悪循環は、ニュース記事だけでなく、動画においてもです。最近では、インパクトのあるサムネイルの画像の内容が再生中に出てこない動画も増えています。また、「ディープフェイク」と呼ばれる精巧な偽の動画をつくることが技術的に可能になり、もはや本物と区別がつかなくなるという別の問題も出てきています。

なお、サリエンスの心理の詳細については、以下の記事の後半部分をご覧ください。


>>サリエンスの心理

②信じたいものだけを信じるから

樹は上司に「フェイクニュースを転載したまとめサイトは30万PV」「一方、うちが出した『CSSの偽サイトに注意!「日本の奴隷労働の現状」はフェイクニュース』。こちらの記事は5万PV。拡散したフェイクニュースの6分の1しか閲覧されていない」と嘆きます。その後、上司は「自分にとって都合の悪い話は信じない。信じたいものだけを信じる。だったら、こっちもバカが喜ぶニュースを流すまでだ」と吐き捨てています。

2つ目の心理は、信じたいものだけを信じるからです。これは、確証バイアスと呼ばれています。あることについて、それを肯定する情報(確証)に注意が向きやすくなる一方、否定する情報(反証)には注意が向きにくくなることです(認知の偏り)。つまり、私たちは、一度そう思ったら、その考えをなかなか変えたくなくなるのです。これは、「良し悪しは第一印象で決まる」(初頭効果)という印象形成のバイアスにもつながります。

例えば、ある有名な教育法の本のサブタイトルには、「才能をぐんぐん伸ばす」ともっともらしく書かれています。これは、この教育法によって「才能が伸びる」ことを説明しているわけですが、私たちは「この教育法でなければ才能は伸びない」と思ってしまいます。つまり、このサブタイトルは確証バイアスを巧みに利用していることになります。実は、この教育法でなくても、一般的な子育てによって「才能は、あるなら勝手に伸びる」という根拠が別にあり、反証することができます。この詳細については、以下の記事をご覧ください


>>幼児教育ビジネス

実際に、ツイッターの大規模な研究では、事実と比べて誤情報は70%多いことが分かっています(*2)。つまり、私たちは、情報を偏って選びがちであるということです。さらに、広告と同じようにニュースも自動的に「より自分にマッチするもの」だけに選別されて流れてくるネットサービス(パーソナライズ検索機能)では、ますます信じたいものだけを信じてしまうようになってしまいます。なお、このような個人情報を学習したアルゴリズムによって、その人に都合の良い情報だけに選別されて流れてくる状況は、まるで特定の情報の「膜」の中に閉じ込められ、孤立していく危うさもあります。これは、フィルターバブル(膜の泡)と呼ばれています(*2)。

③同じ考えでつながりたいから

樹が取材したまとめサイト管理人は「こっちが右寄り、こっちが左寄りのサイトです。例の青虫うどん騒ぎの場合、右派サイトでは『鶴亀(うどん)とテイショーは反日のブラック企業!』ってまとめをつくって、左のサイトでは『差別反対!鶴亀うどんを守れ!』ってね」と得意げに説明します。そんな彼に、樹は「つまり、お金儲けのために、対立を煽ってる」と即ツッコミます。

3つ目の心理は、同じ考えでつながりたいからです。これは、同類性と呼ばれています。「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、見た目や考え方が近い人ほど親近感を抱きやすく集まりやすいということです。これは、「人は周りに染まりやすい」という社会的影響(同調)の心理との相乗効果があります。

実際の研究では、健康に関する交流の実験用のSNSをつくり、つながりがランダムなネットワークと同類性が高いネットワークに分けて、情報共有を行ったところ、同類性が高い方がダイエット日記の取り組みや広がりが強まったという結果が出ました(*2)。つまり、情報の拡散には、同類性が高いネットワークの方が効率的であることが分かります。

さらに、同類性の高い「友人」を自動的に勧められるSNSでは、ますます同じ考えの人とつながってしまうというわけです(集団極性化)。 これは、樹が「対立を煽っている」と言ったように、社会のつながりの分断を引き起こします。もはや、SNSの空間は、自分が意見を発信しても自分とそっくりな意見ばかりがこだまのように返ってくる状況になってしまいます。これは、エコーチェンバー(こだま部屋)と呼ばれています(*2)。その結果、過激なバッシングも生まれています。この心理の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>バッシングの心理


>>【中編】そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?【メディアリテラシー】

参考文献

*1 フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話 シナリオブック:野木亜紀子、2023
*2 フェイクニュースを科学する P14、P45、P48、P71、P73、P80、P96:笹原和俊、化学同人、2021