連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2023年7月号 NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」【中編】そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?【メディアリテラシー】

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・社会脳
・フリーライダー(反社会性パーソナリティ)
・社会的影響(同調)
・スリーパー効果
・信憑性(証拠)
・出どころ(情報源)
・ファクトチェック
・ポスト真実
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前回は、噂好きの心理を掘り下げました。それにしても、そもそもなぜ私たちは噂好きなのでしょうか? 今回は、さらに噂好きの心理の起源に迫ります。これを踏まえて、私たちはフェイクニュースをはじめ情報にこれからどう向き合っていけば良いかというメディアリテラシーについて、一緒に考えてみましょう。


>>【前編】なんで嘘くさくても知りたがるの?【噂好きの心理】

なんで噂好きの心理は生まれたの?

前編で、噂好きの心理とは、びっくりしたい(新奇性)、信じたいものだけを信じる(確証バイアス)、同じ考えでつながりたい(同類性)という3つの要素があることをご説明しました。それでは、そもそもなんで噂好きの心理は生まれたのでしょうか? その起源を人類の心の進化の歴史からひもといてみましょう。

約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に父親が母子と同居して家族が誕生し、やがてその血縁が集まって部族が誕生しました(社会脳)。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>社会脳の起源

この当時から、人類は助け合い(協力)をして生存と生殖の適応度を高めるようになったわけですが、同時に協力して得た貴重な食料をこっそりかすめ取ったり、部族内の誰かのセックスパートナーを勝手に寝取ったり誘惑したりすることで生存と生殖の適応度を高める種(フリーライダー)も現れたでしょう。なぜなら、進化の本来の姿は競争だからです。なお、フリーライダー(ただ乗り遺伝子)とはもともと、みんながお金を支払って乗り物に乗っているのに、自分だけただで乗ろうとする人(遺伝素因)のことを指します。この詳細については、反社会性パーソナリティの起源として、以下の記事の後半をご覧ください。


>>反社会性パーソナリティの起源

そんななか、そのようなフリーライダーの裏切りを部族内で伝え合うことができれば、その人を部族から排除して、集団の協力関係が保たれます。排除されると分かっていれば、裏切りの抑止にもなります。これが、噂の起源です。もっと言えば、噂はニュースの起源とも言えます。つまり、もともとニュースとは、現代のように一人一人が世の中の見識をただ広げて教養人になるためのさっぱりした個人的な興味関心ではなく、まずフリーライダーをあぶり出して集団の秩序を維持するためのじめじめした社会的な装置(機能)であることが分かります。

だからこそ、現代の私たちは良い噂よりも悪い噂に敏感です。他人についてはもちろんですが、自分についての噂ならなおさらです。私たちのおしゃべりの大半は、共通に知っている人の噂話です。当たり前すぎて、逆に気にも止めなかったでしょう。そのマインドで、国内の事件報道や有名人を取り上げたワイドショーをつい見てみてしまうのです。

また、噂は、単にその時の部族内だけでなく、語り継ぎや言い伝えによって、世代を超えた伝説や神話に形を変えていったでしょう。それらは、共有すべき規範意識が込められることで、共同体への帰属意識(集団同一性)を高めます。これが、モラルの起源です。

さらに、世代を超えて続く噂は、共通の生きる知識や知恵としても、集団の適応度を高めたでしょう。これが、文化の起源です。そして、その子孫が現在の私たちです。だからこそ、私たちは、映画、ドラマ、小説などのストーリーを好むのです。

なんで噂の信憑性や出どころには疎いの?

残念ながら、人類は、噂自体には敏感なのですが、噂の信憑性(証拠)や出どころ(情報源)まで敏感になるようには進化しませんでした。なぜでしょうか?

そのわけは、原始の時代の部族社会は、閉ざされていて、約100~150人までのお互いによく知っていて信頼関係がある人たちしかいなかったからです。そのため、いちいち毎回噂の信憑性や出どころについて疑う必要がなかったからです。もしも、嘘の噂を流す人がいれば、「狼少年」(これも寓話という形の噂)のようにすぐにばれてしまいます。そして、要注意人物(フリーライダー)として部族のメンバー全員からレッテルを貼られたり排除されたりして、嘘の噂をまた流すことができなくなるだけだっただからです。

実際の心理実験(アッシュの同調行動実験)では、まず被験者に「同じ長さの線はどれか」という質問をします。この場合の正答率はほぼ100%でした。次に、8人グループで同じ質問をして1人ずつ答えさせるわけですが、実は被験者は1人だけで、残りの7人は被験者ではなく、前もって間違った答えを同じように言うように指示されたサクラにすり替えます。すると、被験者の75%はその7人の間違った答えに同調したのでした(*3)。このことから、人は周りの意見に影響を受けやすいことが分かります。これは、前編でも触れましたが、社会的影響(同調)と呼ばれています。私たちは、周りの多くの人が同じ噂話をしていると、その信憑性はさておき、その噂を信じ込んでしまいやすいということです。

別の心理実験では、「開発された新薬をすぐに使用できるようにすべきだ」という論説を、1つのグループに専門の学術誌(信頼性が高い情報源)の記事として読ませ、もう1つのグループには大衆雑誌(信頼性の低い情報源)の記事として読ませました。そして、その記事に納得するかの度合いを調べたところ、直後は当然ながら前者が高かったのに、1か月後には差がみられなくなったという結果が出ました(*4)。つまり、読んだ内容は覚えていても、その出どころは忘れてしまっているのです。これは、スリーパー効果と呼ばれています。私たちは、信頼性の低い情報源でも、目に触れれば、潜伏工作員(スリーパー)が暗躍するように、知らず知らずのうちにすり込まれていくということです。

みなさんも、人から聞いた話をいつの間にか自分の話として話している状況を、誰かから指摘されたり、逆に誰かに指摘した経験があるでしょう。