連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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伝承の心理の視点から、現代の社会構造や価値観によって、浦島太郎のストーリーはどう解釈できるでしょうか?
例えば、日本眼科学会から医学的な解釈として、実は浦島太郎は「原田病」(急性びまん性ぶどう膜炎)という免疫疾患にかかったという指摘がされています(*5)。これは、発病すると視力が落ち難聴となり白髪やシワが増えていき、どんどん老け込んでいくという特徴があります。
また、物理学的な解釈として、実は浦島太郎は宇宙旅行に連れ出されて、帰ってきたら自分よりも地球の時間が速く進んでいたというストーリーもあります。この現象は、相対性理論の「ウラシマ効果」と呼ばれています。
最後に、精神医学的な解釈として、現代版の浦島太郎、名づけて「シン浦島太郎」を3つのポイントに分けて物語ってみましょう。
①乙姫は実はモラハラ気質であった
現代に生きる浦島太郎さんは、人権意識がとても高い若者です。亀に誘われて竜宮城を訪ねたのはいいものの、乙姫に「四季の部屋」に案内されるなどして引き留められ、なかなか帰らせてくれません。やっとのことで自宅に帰ってみたら、思っていた以上に月日が過ぎ去っていました。しかも、お土産の玉手箱を開けると、中から謎の薬品が噴射され、体に著しい異変が起こりました。
浦島太郎さんは、乙姫は説明義務を怠ったと憤ります。また、逆恨みから放射性物質を仕掛けていたのではないかとおびえます。あの乙姫ならやりかねません。よくよく考えると、亀は助けてもらった恩返しと言っておきながら、一方的で強引でした。竜宮城からは自由に出ることはできず、あの手この手で理由をつけられて拉致監禁されていました。乙姫はモラハラ気質で、自分はストックホルム症候群(詳細は以下の記事を参照)に陥っていたことに浦島太郎さんは気づきます。これは、乙姫だからと言って決して許されることではありません。
浦島太郎さんは、すぐにSNSで竜宮城での乙姫による拉致監禁、玉手箱による甚大な健康被害を世間に注意喚起します。二度と自分のような被害者が出ないようにと願いました。そして、当局に竜宮城と乙姫を刑事告訴して、損害賠償請求しました。これから長い戦いになりそうです。
②竜宮城は実は中毒の刺激だらけだった
現代に生きる浦島太郎くんは、退屈な毎日を送る若者です。ある日、亀から竜宮城という名のテーマパークの永久パスポートをもらいました。そこは、病みつきになりそうなメニューが食べ放題。お酒飲み放題。アトラクション乗り放題。ゲームし放題。連日、歌とダンスとパレードのお祭りが続き、なんと宿泊し放題。さらに、キャストの乙姫たちから心地良い言葉かけやスキンシップなどのおもてなしも♡
浦島太郎くんはすっかり入り浸ってしまい、月日が過ぎるのを忘れてしまいます。ふと気づくと、不摂生から太ってしまい、動くと息切れがするようになってしまいました。頭はぼんやりして、ぶつぶつと独り言を言っていました。体も心もボロボロで、彼はお土産の玉手箱を開ける前に、すでにおじいさんのようになっていたのでした。
浦島太郎くんは、中毒(嗜癖)の刺激(詳細は以下の記事を参照)にさらされすぎて、生活習慣病や認知機能低下など心身ともに後遺障害がみられているようです。
③玉手箱は実は未来を映し出す鏡だった
現代に生きる浦島太郎は、長年ひきこもりになっている若者です。竜宮城と名づけた自分の部屋で好きなゲームをし続け、乙姫と皮肉った親に身の回りの世話をさせてきました。しかし、ふとこのままでいいのかと焦ってもいました。
ある日、ネット検索をしていると、「玉手箱」という亀のマークのアプリに目が留まります。気になってクリックすると、「30年後の自分」と名乗る生成AIが出てきました。その自分は、確かに老けていますが、顔も声も自分に似ています。そして、「自分で竜宮城を立てたよ」「本当の乙姫といっしょになれたよ」「こうなるための自分の強みは何だったと思う?」「まずを何をしたと思う?」と語りかけてきます。
浦島太郎は、ブリーフセラピー(詳細は以下の記事を参照)を受けたことで、理想の未来を垣間見て、むしろ気持ちは若返っているようです。
*5 「第109 回 日本眼科学会総会 特別講演II 眼疾患発症の外因と内因」P907:大野重昭、日本眼科学会、2005