【2ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その1】なんで精神科病院に入院しなきゃいけないの?なんで閉じ込められたり縛られたりするの?-強制入院
どうやって強制的に入院させるの?
それでは、どうやって強制的に入院させるのでしょうか? そのルート(法的根拠)を大きく2つ挙げてみましょう。
①家族等の同意による入院―医療保護入院
明日香は、担当看護師から「同居人の許可はとっています」「担当医と保護者の同意がないと、退院はできません」「あなたの意思でなく、保護者と医師の判断による入院です」との説明を受けます。
1つ目のルートは、家族等の同意による入院です(医療保護入院)。これは、入院が必要と精神科医(精神保健指定医)が判断し、家族が同意すれば可能になります。
なお、「同居人」「保護者」とは、明日香と3年同棲中の鉄雄になっていました。3年以上同棲していれば、確かに一般的には内縁の夫の扱いにはなります。しかし、医療保護入院の同意者は、婚姻をした法律的な夫か血縁関係のある家族である必要があるため、実は鉄雄の同意は無効です。明日香の母親なら、絶縁していましたが、有効になります。
②都道府県知事の措置による入院-措置入院
もう1つのルートは、都道府県知事の措置(行政処分)による入院です(措置入院)。これは、知事から診察命令を受けた精神科医(精神保健指定医2名)が、自傷か他害のおそれがあるために入院が必要と判断すれば可能になります。
なお、行政処分であるため、警察に保護されるなどして行政的な手続きを経る必要もあります。明日香の場合は、精神科病院に直接転院してしまったために、自傷はあったものの、警察に保護されることなく、措置診察(措置入院の判断のための診察)は行われませんでした。
なんで閉じ込められたり縛られたりするの?
明日香は、両手と両足と胴体の5点を白いベルトで縛られ、ベッドに体を固定されていました。病室(保護室)に閉じ込められることは隔離、体を縛られることは身体拘束と呼ばれます。どちらも行動制限であり、人権侵害に当たります。それなのになぜ可能なのでしょうか?
明日香の様子を窓から覗いていた患者は、「クワイエットルームにようこそ」「保護室のこと。私たちはそう呼んでるの。人に迷惑をかけたり、自分の命を粗末にする人を閉じ込めておくところ」とあとで教えてくれます。また別の患者が椅子を振り上げてナースステーションの窓ガラス(強化ガラス)を叩き割ろうとするなど暴れている様子を見て、「クワエット行きだな」と言っていました。
医学的に言えば、隔離拘束の理由(要件)は、自傷、他害、多動不穏、身体合併症が挙げられます。なお、多動不穏とは、自傷他害レベルではないですが、落ち着かず病棟生活が難しい状態です。身体合併症とは、点滴や酸素吸入をしている場合、それらを抜いたり外したりするのを予防するための安全管理上の理由があります。
そのほかの制限として、危険物などの持ち物制限が挙げられます。映画では喫煙のためのライターがナースステーションの窓口に置かれており、ライターの持参は禁止されていました。現在は、そもそも喫煙が病院で全面禁止されているため、映画のように病棟内に喫煙所やライターがあることはありえません。ちなみに、明日香が入院していた病棟は女子病棟となっていますが、現在多くの病棟は男女混合病棟に変わっています。
また、通信制限も挙げられます。基本的に携帯電話の持ち込みは禁止されています。映画のように、公衆電話の設置が義務付けられ、どんな理由でも手紙を出す権利は制限されませんが、不便ではあります。
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