連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2020年6月号 テレビ番組「M1グランプリ」-【続編・その1】実はツッコミはセラピー!?

支える

2つ目は、支えるスタイルです。これは、セラピーの中では、支持療法に分類されます。支持療法とは、味方になることによってクライエントの自尊心を満たすセラピーです。主に3つのスキルがあげられます。

①受け止める―受容
・ハライチの「ノリボケ漫才」(2009)
岩井:「ペットを飼いたい。飼いたいペットの条件みたいなものはある。やっぱねえ、大人しいペットがいい」
澤部:「まあまあねえ、周りでわあわあ騒ぐよりはねえ、かわいらしいですからねえ」(中略)
岩井:「空気読むペット」
澤部:「別れ話とかしてるときにきゃんきゃん来られてもね、空気読め、バカってなりますからね」(中略)
岩井:「食べられるペット」
澤部:「最悪な。最悪、最悪食料が底を突いたらな。あいつ、食べよ」
→ナンセンスなボケに対してツッコミせずに、乗っかってさらにボケる。必死に食らいつく澤部の様子におかしさがあります。ちなみに、ノリボケとは違い、ノリツッコミは、一時的にボケに乗っかりますが、最後はツッコミするので、教えるスタイルに分類されます。

1つ目は、肯定も否定もせず、そのまま受け止めることです。これは、受容というスキルです。「そう感じたんですね」とクライエントを受容するのは、セラピーの基本中の基本です。

②いっしょに感じる―共感
・モノマネ
→特徴をデフォルメすることで共感を呼ぶ。

・テツandトモの「何でだろう」(2002年)
トモ:「♪何でだろう~何でだろう(中略)集合写真をみんなで撮って、できあがった写真を見ると、必ずこんなヤツがいる。目が半開きになってるヤツ~♪」
テツ:トモの周りでリズムに合わせてキレのある動きをし続けて、変顔をする
→「あるあるネタ」。さらに、リズム芸、顔芸、モノマネとのコンビネーション。

・レギュラーの「あるある探検隊」
松本:「あるある探検隊♪あるある探検隊♪秋田のなまはげ怖すぎる。あるある探検隊♪あるある探検隊♪リストラされても絶好調」
西川:「ちょ、ちょ、ちょっと待てや。それ『あるある』か?」

→「あるあるネタ」。ただし、「あるある」と言っておきながら、全くありえないこと、つまり「なしなしネタ」を適度に織り交ぜることで、予定調和を崩している。「あるある」というツッコミと見せかけたボケであることがポイント。

2つ目は、いっしょに感じることです。これは、共感というスキルです。厳密に言えば、共感するのは、ボケとツッコミの間よりも、ツッコミと見ている人の間です。「そういうことありますよね」とクライエントに共感するのも、セラピーの基本です。

③耳を傾ける―傾聴
・笑い飯の「ダブルボケ漫才」(2009)
西田:「きみは本当に鳥が好きなんだね。私が鳥人だよ。人間の体に鳥の頭が付いてるだろ」(中略)「友達の証にこのタキシードの胸元を開いて、人間の体と鳥の頭のちょうど境目を見せてあげるよ」
哲夫:「子ども、変なトラウマなるやろ」「こんどはおれがやる」(中略)「鳥進一だよ。見てごらん。ぼくは森進一の胴体に鳥の頭が付いてるんだよ」
西田」「なんやそれ?」
→お互いにボケる。お互いに多少ツッコミしつつ聞き流す。「言いっ放し聞きっ放し」で、反論をしたり結論を出さない、噛み合わなくても話をし続けるのが特徴。自助グループなどの集団療法やママ友グループの会話に近い。

・スリムクラブの「ゆったり漫才」(2010)
内間:(お葬式で)「故人とはどのようなご関係で?」
前田:「町で1回・・・見たことがあります」
内間:「・・・(戸惑いの表情)。非常識です」
→ツッコミのスピードが遅すぎる。ツッコミが、間(ま)でボケる。漫才のスピード化の真逆を行くという漫才スタイルで、予定調和を崩している。

3つ目は、ゆっくりと間を取ったり話を聞き続ける姿勢を見せるなどして耳を傾けることです。これは、傾聴のスキルです。「そうなんですね」「なるほど」とクライエントに傾聴するのも、セラピーの基本です。