【1ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その2】家族の同意だけでいいの?その問題点は?-強制入院ビジネス
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・障害者権利条約
・医療保護入院制度
・「法律の抜け穴」
・判断基準
・入院費
・精神医療審査会
・「家族調整」
・市町村長同意
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前回(その1)は、強制入院の1つである医療保護入院について詳しくご説明しました。実は、この医療保護入院は、もはや世界で日本だけにしかなく、障害者権利条約に従っていないと国連から改善勧告がなされています(*2)。また、精神科医が所属する基幹学会(日本精神神経学会)からは、すでに医療保護入院を廃止すべきであるとの見解が示されています(*3)。つまり、日本ならではの医療保護入院という制度が障害者への人権侵害を招いており、しかもそれに私たちがあまり気づいていないという衝撃の事実です。どういうことでしょうか?
今回(その2)は、映画「クワイエットルームにようこそ」を通して、医療保護入院制度の問題点を明らかにして、強制入院ビジネスの不都合な真実に迫ります。
医療保護入院制度の問題点とは?
まず、医療保護入院制度の問題点を、病院、家族、地域の3つの立場からそれぞれ明らかにしてみましょう。
①強制入院の裁量権が病院に独占
明日香が強制入院させられた精神科病院は、民間病院でした。実際に、精神科病院の8割以上は民間病院てす。よくよく考えると、本来、行動制限のような人権侵害ができるのは警察などの公権力に限られています。しかし、精神障害に限っては、私人(民間病院)がほぼ独断ですることが可能になっています。
1つ目の問題点は、強制入院の裁量権が精神科病院に独占されていることです。それを可能にする「法律の抜け穴」を、大きく3つ挙げてみましょう。
a.医療保護入院の判断基準が曖昧
明日香が入院していた女子病棟には、様々な人が入院していました。例えば、おそらく統合失調症で、何らかの妄想によって自分の髪の毛を燃やしたり暴れる人です。この場合は、措置入院の要件にもなっている「自傷他害のおそれ」があるため、強制入院が必要であると多くの人が納得できます。
一方、摂食障害で、食事を食べない、食べても吐くために、超低体重になっている人も何人かいました。確かに、摂食という点では自立不全ではありますが、程度の問題になるため、自傷他害ほど白黒つけられません。また、判断能力が保たれている場合は、本人の意思で体重を減らしていることになります。本人の意思でお酒を飲み続けるアルコール依存症と、「本人の意思」という生き方の問題(嗜癖)としては同じです。ちなみに、アルコール依存症だけではさすがに強制入院の対象になりません。
なお、摂食障害が嗜癖である理由については、以下の記事をご覧ください。
1つ目の「法律の抜け穴」は、医療保護入院の判断基準が曖昧であることです。その1でもご説明しましたが、強制入院の要件は、自傷、他害、自立不全によって「自他への不利益が差し迫っている」ことです。自傷と他害は明確ですが、自立不全は程度の問題になるため、明確ではありません。そもそも、根拠となる精神保健福祉法では「医療及び保護のため」としか記載されていません。
つまり、入院が必要と精神科医(精神保健指定医)が独断し、家族が同意すれば、誰でも強制入院させることができます。これは、実はとんでもない権力です。しかも、現在では入院したあとに家族が同意を撤回しても、医療保護入院は継続できるという行政解釈がなされてしまいました(*4)。ますますとんでもない状況になっています。