【4ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その2】家族の同意だけでいいの?その問題点は?-強制入院ビジネス


②強制入院の裁量権が家族にも

明日香の主治医は、担当看護師に「(強制入院)と言っても、旦那が出せって言ったら、こっちはそんな強制力ないですから」「旦那のオッケーさえあれば,出るの早いんじゃない」と言っていました。先ほどにも触れましたが、現在では「旦那が出せ」と行っても、病院はそれ突っぱねることができるようになりました。ただ、このセリフは、とても開けっ広げですが、医療保護入院制度の問題の本質を突いています。

2つ目の問題点は、強制入院の裁量権が家族にもあることです。「出せ」って言われて出すわけではなくなりましたが、反対に「出さないで」と言われたら、なかなか退院させられないことになります。病院としては、空きベッドができてしまうのは避けたいのですが、入院の長期化(3か月以上)で診療報酬が減算されていくのも避けたいです。理想的にはぴったり3か月で退院させて、次の患者を入れ替わりで入院させたいという思惑があります。ホテル経営と発想は同じです。

しかし、家族が「今は家で受け入れる余裕がない」などと言えば、主治医も配慮はします。家族が本人の入院を厄介払いに思っていれば、なおさら手こずります。これは、退院するかどうかは、主治医と家族が相談して決める、そして家族の意向にある程度合わせる、いわゆる「家族調整」です。家族が退院後の受け入れを渋れば、病状とは無関係に入院が継続されます。つまり、入院する段階だけでなく、退院する段階にも家族には裁量権があることになります。病状が安定すれば強制入院を速やかに解除するという人権擁護の取り組みは、明らかに後回しであることが分かります。

2014年の精神保健福祉法の改定前は、まだ同意する家族の優先順位があり、それが同等の場合は裁判所で同意者の選任の審判を受けるという手続きがありました。これは、司法の目が強制入院に少しでも向けられていることを意味しました。しかし、現在は、家族なら誰でも同意できることになり、司法の目はなくなりました。

また、2023年の改正では、同意する家族等から除外される者が「身体に対する暴力を行った配偶者(DV加害者)等」とされましたが、これから行うリスクのある者や精神的な暴力(モラルハラスメント)は含まれていません。

よくよく考えると、本来夫婦は対等であるはずなのに、一方が精神障害であるためにもう一方に強制入院に同意する権限(裁量権)を与えることで、力関係を生み出します。例えば、「言うこと聞かないとまた入院させるよ」と言うなど、医療保護入院による家族同意自体がモラルハラスメントのリスクをはらんでいることになります。

ちなみに、もしも明日香の「旦那」(家族)が、逆に入院に同意しなかったり、そもそも家族がいなかったらどうなっていたでしょうか? いくら救急病院に空きベッドがないからと言って、いきなり精神科病院に転院させられることはなくなります。別の救急病院に転院して、意識が戻ったところでその救急病院の医師(多くは併診する精神科医)が判断能力を評価するわけです。または、その医師が専門外で評価できない場合、警察通報にて警察保護の上、措置診察(措置入院の判断のための診察)が行われます。ただし、どちらにせよ、以下の点で、かかりつけの心療内科への通院は勧められますが、まず強制入院(措置入院)にはならないでしょう。

・酒に酔った勢いで間違えて薬を多く飲んだと主張している点

・希死念慮は酩酊中の発言であり、現在は見られない点

・謝罪や反省の弁を述べて、判断能力が保たれている点

・その直前まで職業適応しており、もともと問題行動を認めていない点

・雑誌の原稿の締め切りをとても気にしており、今後も社会適応が見込める点