【3ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その2】家族の同意だけでいいの?その問題点は?-強制入院ビジネス

c.医療保護入院への審査が形骸化


明日香は、強制入院中のため、締め切りのある原稿を書くことも送ることもできないなか、面会に来たコモノ(放送作家である鉄雄の弟子)から「代わりに書きました」と聞かされます。しかし、その内容があまりにも突飛であったため、そのショックから持病の蕁麻疹が全身に出てしまい、コモノが叫び声を上げてしまいます。それを聞きつけた担当看護師は、他の看護師たちに「(明日香用の)クワイエット(ルーム)の手配を」と速やかに指示を出すのです。しかし、明日香もひるみません。すぐに上半身裸になり、蕁麻疹の様子をコモノに携帯で撮らせて、「この病院は、患者がこんな体(蕁麻疹)になっているのに、治療もせずに監禁しようとしているってインターネットに写真をアップしますよ」と反論するのです。明日香はこうするしか、「クワイエット行き」(隔離拘束)を免れる方法がなかったのでした。なお、厳密には、隔離拘束の最終的な判断は精神保健指定医が行います。

3つ目の「法律の抜け穴」は、医療保護入院への審査が形骸化されていることです。審査とは、都道府県が設置した精神医療審査会のことです。ここに、患者は強制入院中の不当な扱いに対して処遇改善請求退院請求をする権利があります。しかし、実際にそれが認められるのは数%にすぎません(*2)。なぜこんなことが起きてしまうのでしょうか?

そのわけは、書類審査だけだからです。立ち入り審査や聞き取り審査はありません。その書類も、審査に引っかからないように、たとえ頻度は少なくても症状をきっちり記載する作文対策をすることができます。むしろ、審査請求の認定率が少しでもあるのは、単に精神科医が作文対策をうっかり「怠った」だけの書類上の不備であることが推測できます。

ちなみに、先ほど医療保護入院への同意を家族が撤回できないと説明しましたが、その代わりに家族が退院請求をすることができるとの行政からの説明があります。しかし、けっきょくこれも認定される可能性は、かなり低いわけです。

なお、退院支援相談員は、2014年の精神保健福祉法の改正で導入されましたが、けっきょくこの役職も「当該医療機関内に配置」と明記され、その精神科病院に勤務する精神保健福祉士になってしまうため、支援ではあっても、審査の役割はありません。わざわざ明記されているのは、外部の目を入れさせないようにするためではないかと邪推してしまいます。