【3ページ目】2025年5月号 記念日「多様な性にYESの日」【その2】だから遺伝しないはずなのに遺伝してるんだ!―同性愛


③親族の子どもが増えるため?-性的拮抗

例えば、男性と女性では腰の大きさは明らかに違います。なぜなら、性別役割分業をしていた原始の時代を想定すると、男性は狩りをするためになるべく身軽でスリムな腰になるように進化した一方、女性は安全に出産をするためになるべく大きな腰になるように進化したからです。このように、男女で最適条件が対立することがあり、父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子の綱引き(拮抗)によって、生まれてくる子どもの腰の大きさが決まります。

ここで極端に考えて、とても大きな腰になる遺伝子を持つ母方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた女性は、もちろん大きな腰を持つために安全に出産するでしょう。そんな女性はモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた男性も、大きめの腰を持つわけですが、鈍くなりうまく狩りができません。そんな男性は女性からモテないでしょう。

逆に、とてもスリムな腰になる遺伝子を持つ父方の家系があるとします。すると、その家系で生まれた男性は、もちろんスリムな腰を持つため、しっかり狩りができるでしょう。そんな男性は女性からモテるでしょう。一方で、その家系で生まれた女性は、スリムな腰を持つため、難産になるでしょう。そんな女性は、現代とは違い原始の時代ではモテないでしょう。

このように、同じ遺伝子でありながら、生存と生殖の適応度において男女で真逆になってしまうことが分かります。

同じように、もともと男性ホルモンが少なくなる(相対的に女性ホルモンが多くなる)遺伝子を持つ母方の家系があるとします。その家系で生まれた女性は、もちろん女性ホルモンが多いので、ふくよかな体型で妊娠出産をしやすいでしょう。そして、とても共感的なので男性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる男性は、胎児期に男性ホルモンが少ないので、同性愛になると考えることができます。

逆に、もともと男性ホルモンが多くなる(相対的に女性ホルモンが少なくなる)遺伝子を持つ父方の家系があるとします。その家系で生まれた男性は、もちろん男性ホルモンが多いので、筋肉質な体型でしっかり狩りができるでしょう。そして、狩りの能力の高さをほのめかすこだわりの仕草から女性にモテるでしょう。一方で、その家系で生まれる女性は、胎児期に男性ホルモンが多いので、同性愛になると考えることができます。

3つ目は、自分が同性愛であるのと引き換えに、自分とは異性の親の家系(親族)で子どもがより多く生まれている、つまり性的拮抗(性的対立)です。同性愛の遺伝子は、それ自体では適応度を下げていますが、それをチャラにしてお釣りが出るくらいに、その血縁の異性の適応度を上げているというわけです。

実際の調査では、異性愛男性よりも同性愛男性の母と母方オバの子どもの数がともに多くなっています(*3)。

つまり、同性愛の原因は、性的拮抗で説明できそうです。ただし、現在のところ、同性愛女性の父と父方のオジの子どもの数については明らかになっていません。

また、同性愛の遺伝子は現在でも特定されていません。とても頻度が高いのに特定できないということは、先ほどの腰の大きさと同じように、そもそも多因子で散らばりすぎており、遺伝的にありふれていると考えることもできるでしょう。つまり、同性愛は、性(異性愛)の進化の歴史のなかで、そして性別役割分業に徹した人類の歴史のなかで、男女差(性的二型)の進化の副産物であったととらえ直すことができるでしょう。


>>【その3】逆になんで女性スポーツではNOなの?どうすればいいの?-競技の公平性

参考文献

*1 「進化が同性愛を用意した」pp.17-31:坂口菊恵、創元社、2023
*2 「同性愛の謎」p.81、pp.176-179、pp.204-206:竹内久美子、文春新書、2012
*3 「同性愛は生まれつきか?」pp.52-53、pp.89-92:吉源平、株式会社22世紀アート、2020