【1ページ目】2025年5月号 記念日「多様な性にYESの日」【その1】なんで性は多様なの?-性スペクトラム

********
・性的指向
・性自認
・LGBTQ+
・性別不合(ICD-11)、性別違和(DSM-5)
・性分化疾患
・性スペクトラム
・クロスドレッシング
・心理的特性のモザイク
********

5月17日は、「多様な性にYESの日」ですね。正式名称は、ちょっと堅苦しいのですが、「国際反ホモフォビア・トランスフォビア・バイフォビアの日(IDAHO)」です。1990年のこの日、WHO(世界保健機関)が「同性愛」をICD(国際疾病分類)から除外したことを記念して定められました。当時、差別や偏見に苦しむ人たちがたくさんいたわけですが、現在、世の中では性の多様性を自然に受け入れる流れが加速しています。それでは、どう性は多様なのでしょうか? そもそもなぜ性は多様なのでしょうか?今回は、シネマセラピーのスピンオフ、「記念日セラピー」と称して、これらの性についての謎に、進化心理学の視点から迫ります。

どう性は多様なの?―LGBTQ+

性のあり方(セクシュアリティ)は、大きく4つの要素が挙げられます。1つ目は、身体的性(sex)です。いわゆる生まれた時の性別で、簡単に言えば「体の性」です。2つ目は、性的指向(sexual orientation)です。性的魅力を感じる性で、簡単に言えば「好みの性」です。3つ目は、性自認(gender identity)です。自分が認識する性で、簡単に言えば「心の性」です。最後の4つ目は、性表現(sexual expression)です。ファッション、仕草、言葉遣いなど表現したい性で、いわゆる「男らしさ」「女らしさ」、簡単に言えば「らしさの性」です。つまり、性のあり方とは、この4つの要素が組み合わされたものと考えられています。

それでは、実際に性はどのように多様なのでしょうか? 性的指向と性自認の組み合わせから、以下の表にまとめてみました。なお、この2つの要素は、この2つの頭文字をそれぞれ取って合わせてSOGIと呼ばれます。

表1 性の多様性

まず、性的指向が異性の状態はストレートと呼ばれ、人口の約92%います。一方で、これ以外の性的少数者(セクシャルマイノリティ)は約8%いて、それぞれの頭文字を取って、LGBTQ+と総称されます。性的指向が同性の状態は、女性ならレズビアン(L)、男性ならゲイ(G)と呼ばれます。両性の状態はバイセクシュアル(B)と呼ばれます。これらのL、G、Bは合わせて人口の約3%ちょっといます(*1)。さらに、性的指向がない状態はアセクシュアル、不明の場合はクエスチョニングと呼ばれます。

次に、性自認が身体的性と同じ状態はシスジェンダーと呼ばれます。反対の場合は、トランスジェンダー(T)と呼ばれ、人口の約2%足らずいます(*1)。トランスジェンダーの性的指向の多くは、心の性(性自認)に対しての異性、体の性(身体的性)に対しての同性ですが、その逆や両性もいます。つまり、同性愛トランスジェンダー(※本人にとっては異性愛)だけでなく、異性愛トランスジェンダー(※本人にとっては同性愛)、両性愛トランスジェンダー、そして性的指向がクエスチョニングのトランスジェンダーもいます。

さらに性自認が、男女どちらにもなりうる状態はジェンダーフルイド、どちらでもない状態はノンバイナリー(Xジェンダー、アジェンダー)、不明の場合はクエスチョニングと呼ばれます。これらの性的指向も、トランスジェンダーと同じく細かく分けられます。

以上のうち、レズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を除いた残りの性的少数者(Q+)、つまりアセクシュアル、ジェンダーフルイド、ノンバイナリー、そしてクエスチョニングは、人口の約3%います(*1)。

なお、トランスジェンダーとノンバイナリーは、本人たちが苦痛を感じている場合、性別不合(ICD-11)、性別違和(DSM-5)と精神医学的に診断され、ホルモン治療や性別適合手術の対象になります。

ちなみに、遺伝子や性ホルモンの異常などの医学的な原因によって、そもそも体の性(身体的性)がはっきりしない状態は、これまでインターセックスと呼ばれていました。しかし、この疾患の当事者たちの多くが、実は性的少数者に含まれることを望んでいません。このような事情からも、インターセックスという呼び名は、ネガティブなニュアンスがあるとの理由で、現在は避けるべきとされています(*2)。もちろん、当事者たちが困っていたり苦痛を感じている場合、性分化疾患と医学的に診断され、ホルモン治療や外科手術の対象になります。